浮稲の生育中, 深水によって主茎の葉鞘が水没すると, その葉腋の分げつ芽の生長が抑制される.一方, サイトカイニンは不良環境下で抑制されている側芽の生長を促進すること, 特に生長を停止している側芽の細胞分裂を誘起して生長を促進することが知られている.著者らは水耕で生育中の浮稲幼植物に深水処理を施し, 同時に根からサイトカイニンの一種カイネチンを吸収させ (実験1) , また深水状態から減水して浅水状態に移し, 同時に根からカイネチンを吸収させて (実験2) , 深水下で抑制された分げっ芽の生長に及ぼすカイネチンの影響を観察した.浮稲品種Kanlang Phnomを用い, 筑波大学農林技術センターで2つの実験を行った.実験1では, 葉齢5以降第5葉葉鞘水没の深水条件下で, 水耕液中にカイネチンを10
-5M, 10
-6M及び10
-7Mの3種の濃度で溶かして根から吸収させ, 6日後に分げつ (又は分げつ芽) 及び葉の生長を測定した.実験2では, 葉齢3から葉齢6まで深水処理を行い, 葉齢6の時減水して浅水状態とし, 同時に10
-5M及び10
-6Mの濃度でカイネチンを水耕液に加え, 6日後に分げつ又は分げつ芽の生長を測定した.両実験の結果, カイネチンの供給が深水下で分げつ芽の生長を促進し, また深水下で抑制されていた分げっ芽の減水後の生長を促進することが明らかになった.このカイネチンの効果は, 深水下で抑制されているが生長停止には至っていないとみられる分げっ芽と既に生長を停止していたとみられる分げっ芽の双方に及ぶことが観察された.
抄録全体を表示