宗教学や宗教社会学の領域では、二〇世紀末までに、「西洋-キリスト教的」な宗教概念への批判的な視点は自明なものとなっていた。だが、宗教社会学の古典的な概念や理論への批判は、宗教をめぐる議論をわかりにくいものにしている。宗教概念批判の後で宗教をどのように語るのかは、現在も進行中の課題である。
こうした問題関心の下、本稿では、近現代日本の宗教史においてくりかえし現れる「××は宗教ではない」という語りを「「非宗教」語り」という対象として設定し、宗教社会学における課題として提示することを試みた。
本稿の仮説的な主張は、次のようなものである。「非宗教」語りは、宗教言説のなかに生じる構造的空隙としての「(非)宗教的なもの」の領域をつくりだしてきた。このような観点から、本稿では、「非宗教」語りの系譜として、戦前期における「神社非宗教論」、戦後における政教分離訴訟の対象という系譜について概観している。
こうした「非宗教」語りは、現在の宗教研究における宗教概念批判の潮流ともつながるところがあり、日本近代の問題であると同時に、「非西洋」近代の問題でもある。また、本稿の試みがもつ現在の社会学への示唆として、日本においてキリスト教と神道を同時に考えること、人文学と社会科学の間で考えることの意義について論じている。
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