DEI(Diversity, Equity, and Inclusion)は「多様性・公平性・包括性」を意味し近年重要性を増している。人類学における課題解決の鍵でもある。H. リーヴァイは、人類学とフェミニズムの交差が暴いた男性中心主義、植民地主義との共謀関係にある人種主義、調査対象者に押し付けるジェンダーや人種が掛け合わされた複合的不平等が、人類学に学問的危機を招いたと警鐘を鳴らす。これらは日本社会の危機とも重なる。本稿ではカネヴィンフレームワークを用い危機を可視化し解決法を探る。日本の性平等は2023年には世界125位である。人種差別も国連から何度も勧告を受ける惨憺たる状況だ。日本人男性複合特権は在日コリアン女性が苦しむ複合差別と表裏一体だ。「女性差別」は問題視しても人種差別には無頓着、あるいは人種差別には留意しても性差別は不問といったことが長年続いてきた結果だ。ジェンダーと人種の交差性(インターセクショナリティ)への着目は、性差別と人種差別を同時に解決する第一歩だ。「複合差別」の是正に尽力する日本人男性もいれば、日本人男性の「複合特権」的価値観を受け入れてしまっている在日コリアン女性もいる。日本の「安全神話」や「男女平等神話」、「単一民族神話」をフェミニスト・エスニック・スタディーズの視点で読み解きつつ、人類学及び日本社会の課題と解決方法を考察する。
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