金融自由化以前では「護送船団方式」の金融行政が日本の金融システムの枠組みを作り出し,金融システムの安定性を維持してきた。競争的市場では特定銀行の経営破綻が「伝染効果(contagion effect)」を通じて金融システムの不安定化をもたらし得るが,この金融システムの不安定化を回避するための制度的枠組みが「護送船団方式」であるということができる。この枠組みにおいてレント(rent)の発生・配分のメカニズムおよび天下りを通じた「レントの循環」が欠かせない要素である。無論,天下りは金融部門だけに見られる現象でないのだが,天下り経営者が個別銀行の経営のあり方にどのような影響を与えたのかについて計量的分析を行うことは,「護送船団方式」の実態とその変容を理解するうえで,有益な作業であろう。
本稿ては金融市場に存在する大量の天下り経営者が個別銀行の経営状況,ひいては銀行間の競争システムのあり方にどのような影響を与えてきたのかについて実証的研究を行った。実証分析の結果によれば,天下り経営者と経営の効率性・健全性の間には有意に負の相関関係が見られる。個別銀行の中て天下り経営者は個別銀行の経営の健全性を引き上げるべく機能しなかったが,このことから必ずしも天ドりが個別銀行経営の非効率性をもたらしたとは言い切れない。「護送船団方式」では,レントの発生・配分を通じて,最も経営効率の悪い銀行を含むすべての銀行の存続が確保されていたために,個別銀行の経営効率の向上はそれほど菫視されなかった。「護送船団方式」は金融システムの安定性の維持という観点から一定の意義が認められるが, 1990年代に入り,バプルの崩壊を機に,従来の規制緩和などの効果とあいまって,市場におけるレントが急激に減少したことにより,「レントの循環」により成り立つ「護送船団方式」は機能不全の状態に陥り,金融危機は発生したと考えられる。
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