ある離島の海辺の家で、海人のTさんと、海人になりたいと願うお孫さんと担任の先生といっしょに「海のいのち」(
立松和平
)を読むという〈場〉を体験した。文字文化と疎遠な海人と文学を読むには、いったん〈文字〉を〈声〉に起こしながら文脈を辿っていかなければならない。場面毎に海人の方は自らの海人としての歴史物語を想起し、孫に語り継ぐ。最後の場面に来て、この本を書いた人は「甘い」と語った。それを聴くお孫さんと教員…。〈海のいのち〉と文字通り日々命を賭けて対峙する海人の方を支えるのは、御願バーレーという祈りの歌である。この〈場〉は、〈第三項〉論に立つ文学教育論に拠るとどのように意味づけられるのであろうか。文字文化と疎遠な人びとにとっての口承文芸をも位置づけてきた文学教育論の系譜を辿りながら、この問いについて向き合いたい。
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