舟運交通の衰退とともに、活動を停止していた可動橋は、ここにきて橋自体の撤去が目につくようになった。本稿では、現存する可動橋の土木史的意義を検討するため、以下の3つの分析をおこなった。まず(1)明治以降、今日までに架設された可動橋リストの作成。これによって、ギネス的な価値をふくめ、各橋の全体的な関係がつかめる。いままでに80橋の可動橋が架設され、現存する近代の可動橋はわずかに6橋。明治期は旋開橋が多かったが、跳開橋は大正期に、昇開橋は昭和戦前期になって、はじめて登場する。
次に(2)近代可動橋を、世界的な潮流のなかで概括した。明治末期から大正期にかけて留学したわが国の橋梁技術者は、アメリカの“跳開橋の黄金時代”の洗礼と影響を受け、10~15年遅れでわが国に最新式タイプの可動橋を導入した。
(3)架設数の多い近代跳開橋については、一歩深めた分析をおこない、各橋の意義を明瞭にすることに務めた。「桁下CWタイプ」(CWはカウンター・ウェイトの略)は7橋と一番多く架設されたが、現存するのは、隅田川にかかる勝鬨橋のみである。「上部CWタイプ」は5僑架設され、2橋が現存している。2橋とも、設者施工会社が同じである。「ケーブル・タイプ」としては、3橋が架設され、いずれも現存してない。「ローラー・タイプ」としては、大阪市の大船橋が唯一であったが、1978(昭和53)年に撤去された。「天秤タイプ」は1橋が架設され、しかも現役で活躍している。この貴重な橋は、愛媛県にある長浜大橋である。
この他、現存するものとして、現存最古の可動橋である和田旋開橋、現存最古の昇開橋:筑後川橋梁が確認された。
(4)今回おこなった分析は、土木遣産のひとつの評価方法を提示していることにもなる。
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