タンパク質や核酸など生体高分子の立体構造情報は生命科学のみならず医学・創薬などに必須な基盤である.クライオ電子顕微鏡法はこれまで構造生物学の主な手法であったX線結晶解析法やNMRを補完する役割を超え,今や主たる基盤技術として高分解能構造解析の極めて強力なツールとなった.安定性と制御性の高い電子光学系,冷陰極電界放出型電子銃,エネルギーフィルター,高フレームレート高感度CMOS型直接電子検出カメラ等を装備したクライオ電子顕微鏡や高速コンピュータと画像解析ソフトなどのハード・ソフトの開発により,生体高分子の立体構造をわずか数μgの水溶液試料から数日以内に決定することが可能である.わずかな水溶液試料から生体高分子の立体構造がどのようにして原子分解能で可視化できるのか.本稿ではクライオ電子顕微鏡法の最近の進歩と生命科学や創薬科学への今後の貢献について展望を述べる.
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