本稿の目的は,日中両言語における(「鍵がドアを開けた/鑰匙打開了門」のような)無生物主語他動詞文を,連語論的アプローチという方法論を用いて比較し,それぞれの成立要因とその異同を明らかにすることである.日中の大規模コーパスを利用した調査とコレスポンデンス分析による検討の結果,対格名詞を物に限定した「物に対する働きかけ」の場合,両言語の無生物主語他動詞文の成立においては,動詞の「再帰性」と「受影性」とが共通の要因として働いていること,また,各タイプの名詞と結びつきやすい動詞の種類は,その名詞の性質と深く関わっていることが分かった.例えば「風」のような「自然自律」タイプの名詞は,「受影性」の高いものから低いものまで幅広い動詞と結びついて連語を作っているが,「樹木」のような「植物自律」タイプの名詞は,もともと外部に働きかける力が弱いため,「樹木が実を結ぶ」のような「再帰性」の強い生産動詞による結びつきに集中している.また,日本語では「自然自律」などのタイプの名詞が「風が音を立てる」のような生産動詞による結びつきを数多く作るが,中国語では同じタイプの名詞にこのような結びつきがあまり観察されなかったことが両言語の最大の相違点である.
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