【背景】阪神淡路大震災では陸路の交通網が遮断され、救急患者や物資の輸送が滞るという問題点が浮き彫りになった。この教訓を受け日本透析医会は災害時医療支援船構想2005をスタートさせた。2005年には阪神地区において神戸大学海事科学部の練習船「深江丸」を使用して移送運用航海が実施された。2006年には首都圏直下型地震を想定し、国土交通省の巡視船「あらかわ」と「オリエンタル」さらに東京海洋大学の練習船「汐路丸」などの船舶を使用して荒川と隅田川、東京湾において検証航海が行われ、2007年にも実施された。これらの検証航海には、透析患者さんも実際に参加している。
茨城県南地域は、霞ヶ浦と利根川の流域に面しており、水路を利用しやすい地理的環境にあることから、今後、大規模災害が発生した場合を想定し、茨城県南地域の河川等を利用した患者さんの輸送手段について検討した。
【目的】県南地域において、船舶を利用した透析医療の支援活動の可能性を検討した。
【方法】利根川下流(取手から銚子まで)と霞ヶ浦について次の項目を調査した。
(1)運航又は停泊している船舶の種類と数(2)利根川下流と霞ヶ浦の航路と所要時間
(3)県南地域の透析ベッド数
情報収集は、取手市役所防災対策課、国土交通省利根川下流河川事務所取手出張所、国土交通省霞ヶ浦河川事務所調査課、
茨城運輸支局
、関東運輸局、茨城県庁、常陽観光株式会社、株式会社京成マリーナ等から行った。
【結果】(1)霞ヶ浦と利根川下流には、国土交通省の河川巡視船が7隻(「はるかぜ号」「鳳凰」「かとり」「水郷」「白帆」「あやめ」「かすみ」)、民間の遊覧船(「ホワイトアイリス号」「高速船つくば号」)が2隻、プレジャーモーターボートが1298隻と合計1307隻の船舶が運航、又は停泊している。(2)取手から銚子までの所要時間は巡視船で約4時間、同じく土浦から銚子までは約2時間である。土浦から鹿嶋港までの運航は、遊覧船の高速船つくば号を使用した場合に、銚子から神栖市の沖を経由した航路で約3時間を要する。(3)県南地域の透析施設は25施設である。透析ベッド数は888床であり、茨城県全体の透析施設の38%を占めている。
【結論】茨城県南地域では、船舶輸送による透析医療の支援活動が出来る可能性がある。
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