自然災害に備えるための基本的な思想として,“防災”という従来の思想から,“減災”というあたらしい思想への転換が,国内外の随所で確認されるようになっている.この思想の変化の本質を理解し,巧みに利用することは,社会的認知の研究において人が“何かを得るために行動しようとする”ことと,“何かを失うことを避けるために行動しようとする”こととでは,出現する行動や,行動の出現傾向そのものに違いが生じることを説明する“制御焦点理論(regulatory focus theory)”の視点から考えても,今後の自然災害対策施策に極めて大きな意味を持つことが推察される.本論では,より安全な社会や自然災害に強い社会基盤を構築するために,これから求められる自然災害リスク・コミュニケーションや情報提示のひとつの方法として,制御焦点理論の理論的な説明および応用に向けた展望をまとめた.
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