近年都市部で問題となっている都市型豪雨(ゲリラ豪雨)の発生に大気汚染物質が与える影響を解明するため,2008年から2016年にかけて東京都内で降水を採取し,主要無機イオン,水素・酸素安定同位体比を分析した.都市型豪雨では酸性物質由来成分(H+, NH4+, NO3−, nss-SO42−)が高濃度であり,都市型豪雨発生時にはその中心付近で降水量とともに酸性物質沈着量を局地的に増加させる.雲を形成する水蒸気の起源として海洋の割合が高いと降水の水素・酸素安定同位体比は大きくなるが,都市型豪雨は通常降雨よりも小さい水素・酸素安定同位体比を有しており,海洋起源水蒸気の影響は小さい.また,気象及び大気汚染物質濃度のデータ解析の結果,都市型豪雨発生前には大気汚染物質濃度が高く,都市型豪雨発生直前に二次生成反応が急速に進行することがわかった.これらの結果に基づき,次の都市型豪雨生成機構を提案した.①都市温暖化による上昇流発達により生成した低圧帯に,大気汚染物質が周囲から集積する.②光化学反応が活発であり,SO2やNOxの二次生成が促進され,酸化生成した硫酸塩や硝酸塩が雲凝結核(CCN)となる.③これらのCCNが都市部から蒸発した水蒸気を起源として,多数の小さい雲粒を生成させる.④上昇流がさらに発達すると,巨大雲凝結核である海塩粒子を含む湿った海風が大量に流入して大きな雲粒を生成し,小さい水滴との併合衝突により急速に雨滴まで成長する.
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