本稿の目的は、「シリーズ 戦争と社会4」『言説・表象の磁場』の問題意識を継承しつつ、現代日本における戦争と平和をめぐる言説・表象の空間の特徴を探ることである。そのための方法として、2021年に著者らミリタリー・カルチャー研究会が実施した全国規模の質問紙調査「自衛隊に関する意識調査」で得られたデータに対する計量分析をおこない、(1)「日本」の国家観と戦争観・平和観との関係、(2)自衛隊のメディア表象、(3)安全保障問題に対する「関心」派と「無関心」派との分断の3点を中心に考察した。その結果、下記のような知見が得られた。
(1)戦後、戦争の否定の上に成立した「平和主義」は、現在も日本社会に広く共有されている国家観の基盤をなしている。ただしこの「平和主義」の価値観は、自衛隊や安全保障問題への関心とは乖離して存在している。
(2)自衛隊のメディア表象は、メディアにおける「市民社会との接点」を通じて伝達されるソフトなイメージにその多くが規定されており、武力を行使しうる軍事組織としての自衛隊のハードなイメージは、それと比較すると、メディア表象空間の中での現実感は薄い。
(3)現在の安全保障問題に関する意見・関心・知識の布置状況は、自衛隊や防衛力増強に対して肯定的な意見と批判的な意見との隔たりよりも「関心層」と「無関心層」との分断によって、より強く規定されている。
以上の結果は、「戦争」や「軍事」のリアリティに冷静に向き合う公共圏、すなわち安全保障問題をめぐる討議と合意形成の場の構築が、いまだ未成熟である状況を示している。
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