症例は75歳男性. 冠危険因子は高血圧と脂質異常症. 日中持続する胸痛を主訴に受診した. 急性冠症候群の診断で入院となり, 冠動脈造影検査 (coronary angiography ; CAG) で左冠動脈主幹部 (left main coronary trunk ; LMT) を含む三枝に高度狭窄を認めた. 右冠動脈の狭窄に対して経皮的冠動脈形成術 (percutaneous coronary intervention ; PCI) を施行し, 翌日に冠動脈バイパス術 (coronary artery bypass graft ; CABG) を施行した. 術後に心電図変化を伴う胸痛を認めたため, LMTから高位側壁枝の残存狭窄に対してPCIを施行し, 薬剤溶出性ステントを留置した. 退院2カ月後から早朝安静時の胸痛を認め再度入院となった. CAGでは新規病変はなく, バイパスグラフト経由でアセチルコリン負荷を行ったところ, 左前下行枝に冠攣縮が誘発され, 原因としてCABGでのバイパス縫合に伴う血管内皮障害が冠攣縮を誘発した可能性が示唆された. Ca拮抗薬および硝酸薬の内服開始後胸痛は消失した. CABG術後に性状の異なる胸痛を認める症例では, 遠隔期であってもCABGの手技に伴う冠攣縮の関与の可能性も考慮する必要があると考えられた.
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