岸田國士は、悲劇だけに劇的なものを見るのではなく、現代では日常のなかに喜劇を発見する批評精神が求められるとする。だが、この日常の喜劇は書かれたものだけでは機能せず、観客を入れた劇場ではじめて発信されるという。具体例として岸田國士「ママ先生とその夫」を取り上げ、築地座での上演時の岸田の演出ぶりや、俳優たちが戯曲からどのように役を立ち上げていったかなどを、当時の劇評や主演者の回想などを資料として探る。劇場では戯曲のことば以外の表現が求められ、近代の支配的言語観からどう抜け出すかが問われていた。その点で、文学と一線を画す戯曲のあり方にも言及した。
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