電子の内部自由度である電荷とスピンは電気伝導と磁性という物質の重要な性質に直接関係するため,それらの空間構造と動的性質は,物性物理学の中心的な研究課題となってきた.電子雲を単位とした繰返し構造は,従来,「原子核の作る結晶格子上に電荷およびスピンの自由度が配列したもの」として捉えられてきた.しかし,近年の強相関電子系の研究を通じて,電荷とスピンの自由度に「軌道の自由度」を加えた三つの自由度の秩序状態が,系の物性に決定的な影響を与えるという認識が広く受け入れられるようになっている.本稿では,この軌道自由度に関する最近の物性研究について解説する.特に代表的な観測手段となった共鳴X線散乱法がどのような原理に基づき何を観測しているのかについて議論し,最後に「軌道物理学」に将来どのような展開が期待できるかを示す.
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