小林多喜二は「落書き」に強い関心をもっていた。『一九二八年三月十五日』は、留置場の壁に刻み込まれた「落書き」の「連載」を発見し、それに参加する渡という労働者に注目している。「落書き」は時間とともに消され、書き加えられ、訂正され、という「連載」のプロセスを通じて「匿名」と「集団」の表現へと変貌してゆく。それはまさに発禁、削除、塗りつぶしをたえず強いられたプロレタリア文学の姿そのものであった。本論では、小林多喜二における「落書き」と「連載」の発見に注目し、「連載」が抵抗の手法であること、プロレタリア文学運動を可能性へとひらくキーワードであることを論じた。
抄録全体を表示