新疆ウイグル自治区の南部と西北部を調査した結果,新疆南部の甘草の資源は新疆西北部より多く,種としてはGlycyrrhiza inflata が主で,G. uralensis が混入することが判明した.次に,新疆西北部だが,ここは主にG. uralensis とG. glabra が混生しているが,新疆南部より開墾が進み,甘草はすでに周辺部に追いやられている感がある.
新疆甘草について総合的に考えると,新疆ウイグル自治区産では甘草として使用する3種の植物が混生し,これを採取するとき,現地ではこれらの種を区別して採取するわけではない.また,新疆各地で採取した甘草をウルムチに一旦収集してから輸出していることもあり,新疆甘草とはこれらの3種(G. inflata,G. uralensis,G. glabra)が混在する甘草であると判断できる.この混在の割合は資源の量から考えると,G. inflata が最も多く,ついでG. uralensis,G. glabra となると考えられる.
日本の生薬の公定書である日本薬局方は,甘草としてG. uralensis とG. glabra しか認めていないため,日本では,G. inflata が含まれる新疆甘草を生薬として使用することはできない.もし,東北甘草の資源枯渇などにより新疆甘草を使用しなけれでならないような状況になった場合には,新疆ウイグル自治区内の産地限定などにより輸入する種を限定するしかないが,複数の種が混在するこの地区の現状を考えるとどうも現実的ではない.実際には,新疆ウイグル自治区内に自生するG. inflata,G. uralensis,G. glabra の生薬としての適性及び同等性を再評価して,その結果により新疆ウイグル自治区産甘草の使用可否が決定されるべきなのだと思う.
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