青森縣上北郡七戸町天神林にて約30年前用水路開鑿の際更新統中から發見されたものである。當時同一動物體に屬すると思はれる頭骨, 下顎骨, 象牙, 尺骨, 脊椎骨, 肋骨等多數發掘されたが, 皆四散し僅かに右象牙, 第一後臼歯付右下顎骨, 左尺骨, 及び二, 三の骨片が東京農業大學に保存されて居る。
地質は金原均二理學士の調査に依るもので其報告は筆者の一人徳永が地學雑誌2月號に掲載した。其結果によれば象含有層の年代は上部更新世に屬すといふ。
Palaeoloxodon aomoriensisTOKUNAGA and TAKAI
下顎骨に附著せる第一後臼齒の咀嚼面は長楕圓形をなす。前後の「タロン」及び12の稜を有す。咀嚼面に於ける長さは126mm, 幅は第五稜にて47mm, 齒冠と咀嚼面との間の高さは第十二稜にて96mmである。よく磨削された稜は著しき菱形をなし, 其中央部は前後に突出し各尖端部は (特に第五, 第六稜に於て) 互に接近する。本種は日本に普通な
Palaeoloxodon namadicusの何れよりも稜の形は菱形を呈する。琺瑯質の皺は非常に強く, 稜の厚さは1.9-2mmある。100mmに含まれる稜數は9.5である。
猶ほ下顎骨中にあつて未だ磨削の域に達して居らない第二後日齒の破片數個がある。
門齒は殆んど完全にて長さ710mm, 直徑中央部にて52mm, 根元にて65.5mm, 屈曲率は直径800mmの圓周の一部に相當する。右牙である。
下顎骨は烏喙突起, 踝状突起, 縫合部及び内側片の全部缺損して居る。
尺骨は長さ310mmにて, 鶯嘴突起は破損して居る。
第一後臼齒の大いさ, 100mmに含まれる稜數及び左尺骨の大いさ等より本種は從來日本及び外國に於て發表された
Palaeotoxodon屬に比し小型の象である。上部鮮新世, 或は下部更新世に印度より渡來したる後日本に於て數種の象に分化したのである。100mmに含まれる稜數が本屬の時代を表はすものと假定すれば, 本種は上部更新世に屬するものと想像され, 其點に就ては
金原學
士の地質調査の結果と何等矛盾しない。
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