上海における和服着用者の活動の動機・内容や活動空間のあり方を分析することで,中国において日本の民族衣装である和服が,どのように受容されているのかという点について検討した.研究方法として,和服同好会の会合等での活動記録の分析に加えて,同好会の活動に参加している会員らに対してインタビュー調査やアンケート調査を行った.同好会の活動内容をみると,和服や他の日本文化に関する活動の体験や交流活動が中心になっているが,実際の和服の着用方法や着用の際の作法等の学習会も多く行われている.その理由として,漢服のような中国の民族衣装では不明になっている,「真正」なデザインや着用方法・作法に関心を持つ人もいる点が挙げられる.活動空間の特徴をみると,調査時期には,中国と西側諸国の国際関係の悪化や新型コロナウイルスの感染拡大により,その活動内容や活動場所が制約される一方で,活動の商業化の傾向もみられた.同好会の会員たちには,日本において伝統的に存在してきた「真正性」のある和服を着用したいという意識がある一方で,中国では,和服を着用するにふさわしい場所の確保が難しいという側面もある.その中で,同好会では茶道や華道,弓道といった他の日本文化に関係する団体とも提携しながら活動空間を形成しようとしているが,同好会の会合は,都心部の一般的な商業施設にて開催される場合が多かった.また,ディズニーランドやクリスマス,ハロウィンといった,必ずしも日本の歴史的文化とはいえない空間や活動とも結びつきながら,その活動の場が形成されていた点も特徴的であるといえる.
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