本研究の目的は,放送局がいかに自らの「ヒト・モノ・カネ・情報」を使って「生き残り」をはかろうとしているのかを検証することである.著者はテレビ東京に入社して36年間,常に番組制作の場に携わってきた.その中で培った暗黙知や専門的な知識を詳細なデータ分析で裏づけしてゆくことで,テレビ東京が自らの「弱点」や「マイナス面」をプラスに転換していった戦略の実情を明らかにしてゆく.今回,弱点やマイナス面に着目したのには理由がある.「弱者」がマイナス面を打開しようとする方策の中にこそ,新しい「発想」が存在すると考えるからである.本論は放送業界の配信ビジネスへのパラダイムシフトが激化する今の時代にふさわしい内容であり,放送局が番組コンテンツをどうビジネスとして運用してゆくべきかというテーマを暗黙知とデータ分析,いわゆる芸術と科学という2つの領域から照射した考察はこれまでにないため,学会内で共有するべき有用な研究と考える.最終的には放送局におけるよりよい作品コンテンツ運用についての提言をおこなうことでその弊害や問題点を浮き彫りとし,放送局の未来の姿を予見したい.
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