本研究の目的は日本のベトナム人集住地域に暮らすベトナム難民にとって,ベトナム語や日本語といった複数の言語の使用や学習がどのような意味を持つのかを明らかにすることである。ベトナム人コミュニティでの参与観察と,ある中国系ベトナム難民を対象とした半構造化インタビューを実施し,インタビューに出てきた「夢」という言葉に着目してライフストーリーを作成した。日本での定住を開始した当初,彼は日本語の問題により夢を喪失したが,ベトナム人のネットワークを利用して生活を改善した。その後,日本語を学ぶことの価値を感じることのできる会社に勤めたことで,日本語学習の動機が高まった。ベトナム人集住地域では,希望の仕事ができないという問題もあるが,ベトナム仏教の寺院を設立したり,夜間中学に通うようになったりと夢を達成することができた。彼のストーリーから,日本語を使用し,学習することの意味や,ベトナム人集住地域に暮らすことの意味をベトナム難民の視点から問い直すことができた。
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