本稿は,遠山啓における「楽しい授業」論の特質を明らかにするものである。本稿の検討によって,①遠山におけるゲームは,算数・数学教育における「反復練習」の課題を補完することを目的に教育活動に導入されたものであること。②彼は「儀式的授業観」の克服は必要なものと考えていたが,その方途に,児童生徒に迎合するような姿勢を推奨していたわけではないこと。③1970年代に進むと,遠山は,「わかる授業」によって,一様に学力考査の得点を向上させることができるものの,それでは,児童生徒の成績による序列をそのまま引きあげたことにすぎないと懸念し,序列のつかないゲームの性質に注目して「楽しい授業」論を提唱したこと。④彼による「楽しい授業」は,「わかる授業」と対立するものではなく,補完しながら構想されたものであること。以上の知見が明らかとなった。本稿の知見によって,先行研究の解釈とは異なる遠山の「楽しい授業」論の輪郭を明らかにすることが可能となった。
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