本稿は,現代美術社から昭和56年に発行された中学美術科教科書『少年の美術』を分析し,現在の教育的視点からその価値を再考するものである。当時,『少年の美術』は文章が多いことから「読む教科書」と価値付けられ,読み手の気持ちに迫るものと評価されていた。このことから,学びを深める鍵として「造形的な見方・考え方」が重視される現在の美術教育において,参考資料としての価値が見込めると考えた。教科書分析の結果,『少年の美術』は随所に編集者の主張が取り入れられ,読み手に共感や反発などの感情を抱かせることを意図した「読んで考える」教科書としての構成が明らかになった。生徒が文章を読んで美術について考えることは,視覚情報が豊富な現在の教科書とは別の方向性で見方・考え方の更なる広がりが期待できる。調査を通して,授業構成や教材作成等の一資料として『少年の美術』の価値を見いだすことができた。
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