本特集の寄稿者が掲げる環境教育の目標は、「豊かな」自然とその「恵み」を享受する主体として人の心を強く認識している。それは人の心に訴えかけて、自分の暮らす地域とその自然環境を「好きになること」、「大切にすること」、そしてそこに住む他者に共感を覚えることである。そのための手段として、環境を論理的に解釈するだけでなく、環境と親密になり共感を覚える多種多様な手法・文化を排除しないという方向性が示されている。環境教育を進める上では制度やプログラムなどの大切さとともに、人と人とのコミュニケーションの問題が重要な課題となっている。筆者らは研究者がアイデアとデータ収集の方法を提案し理論的な基盤を用意する、博物館の学芸員が仲介・組織し、教員と地域の民間団体が組織的に活動する、このように互いの特性を生かした連携が望ましいと考える。教員にとっては、博物館を利用する中で多くの人々と出会い、最新の自然の情報、研究成果を手に入れることができる。現在、市民や学校の教員・生徒を巻きこんだ調査が博物館の支援で多数実施されている。調査結果は学術誌に掲載されることはほとんどないが、このような野外調査の成果を学術論文として発表できなくとも、環境教育において無意味であるとは考えられない。生態学の普及・教育に関する貢献として評価し、推進してゆくべきではなかろうか。むしろ生態学会としては、学術的な問題点を明らかにして、それをどのように改善可能なのかを、学術研究の専門家が助言できるような連携の構築が望ましい。そのためには教員、博物館学芸員、生態学研究者、地域の自然をよく知る人が日常的に互いの立場を尊重しながら連絡体制を持つことが必要である。連絡の窓口をどこに設置するのかについては、博物館・大学・教育委員会・ウェブ上と様々な選択肢があるが、日本生物教育会の都道府県支部や各地区ブロックとの連携には博物館を拠点とした体制が好適であろう。
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