小児の乳前歯部欠損と乳臼歯部欠損の欠損部位による発音の相違について検討するため,比較的咬合状態の良い小児と比べ,以下のような結論を得た。
1.母音ホルマントの出現周波数域は,臼歯部欠損児のほうが前歯部欠損児よりも,比較的咬合状熊の良い小児と比べた場合に,相違が多く認められた。
2.母音のホルマント別では,前歯部欠損ではi,臼歯部欠損ではiとeに相違が多くみられた。
3.各ホルマント別にみると,第1と第3に相違が多くみられ,第2は比較的相違が少なかった。
4.各周波数領域における成分の強さについては前歯部欠損および臼歯部欠損ともに,母音よりも子音発音が影響を受けやすいことが認められた。
5.母音発音においては,低周波数から中周波数域にかけて相違が多くみられた。
6.前歯部欠損ではタ行が,臼歯部欠損では力行が改善される傾向にあるが,サ行発音は改善が困難であることが認められた。以上のことから,比較的咬合状態の良い小児と比べた場合,臼歯部欠損の場合のほうが前歯部欠損のときよりも相違が多くみられ,これは,臼歯部欠損で可撤保隙装置を作製する際,発音機能についても保隙や咀嚼機能と同様に考慮しなければならないことを示唆している。
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