芥川
龍之介
の「死後」(1925)は、夢の中では死んでいるという設定の〈僕〉という話者によって語られる作品である。本論では、ジークムント・フロイトの夢解釈の理論を根拠として、ジャック・ラカンのシニフィアンの理論も参照し、作品内の夢を中心に分析した。
作者は、〈僕〉という話者(語る主体)を、現実と夢の世界を往来して意識と無意識とを媒介する中間者的な存在として設定し、睡眠前の日常と入眠直前から、夢の場面を経て、覚醒後までの過程を語った。夢の記述を通じて無意識を開くことによって、芥川は生きることへの欲望をはからずも書いてしまった。フロイト的な無意識の露呈によって、作者芥川は末尾の一文に〈フロイドは――〉という言葉を召喚したのである。
晩年の芥川は夢をモチーフとする小説を書き続け、自らの無意識を顕わにしていく。「死後」は、芥川
龍之介
の無意識の欲望、生への欲望が刻まれた小説である。
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