NHKがこれまで制作してきた放送番組を、学術研究のために利用してもらう事業(学術利用トライアル)は、今年で14年目を迎える。過去の放送番組を歴史的・文化的な資産と見なし、学術利用という形でその社会還元を行うことが趣旨である。これまで250件を超える研究者がNHKアーカイブスで番組を閲覧し、120件を超える学術論文が生産され、100件を超える学会発表がなされてきた。しかし、着実な研究成果があがっている一方で、NHKの事業としては依然「トライアル」(試行)という位置づけであり、2016年以降は、閲覧コンテンツの制限が進行するなど、事業の後退が目立っていることも事実である。研究の「成果」に対する、NHKと研究者との間の認識の乖離も見られる。本稿は2022年10月に行われた「成果発表会」の報告を行うとともに、近年の学術利用トライアルの動向を指摘し、今後の展開を実りあるものとするためにどうすればよいのか提言する。何を「成果」とするかは研究者たちにまかせたうえで、学術研究における放送番組研究の価値を高めるためにNHKができることを行うべきである。
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