目的 本研究は,中日両国の教育制度の相違を踏まえながら,小学生の生活実態を比較検討することによって,日本の家庭科教育の意義と課題を明らかにし,中国における生活教育のあり方について考察することを目的とする。第1報では,中国における教育課程の概観と,小学生の衣生活に関する教育について比較検討を行う。
方法 中国の教育方針,教育制度,教育内容の概観については,文献・インターネット検索などによる。 中日両国における小学生の衣生活教育に関しては,両国の公立小学校各1校の6年生を対象とし,自記式質問紙を中国語版と日本語版で作成し,各学校で調査を実施した。調査時期は2002年6月と同年8月である。回答総数は,中国58人,日本100人であった。
結果 1.中国は,日本の26倍の国土と12倍の人口をもち,55の少数民族から構成されている国である。現在の教育方針は,1995年「中華人民共和国教育法」により,「社会主義現代化の建設」をめざし「生産と労働の結合」と「徳・知・体」等での全面的発達を求めている。
2.中国では,文化大革命後1977 年に大学入試が再開され,翌年から中学入試が始まり,79年から一人っ子政策が開始された。都市部での大学進学布望者は多いのに対して,進学者は12.5%(2000年)にすぎず,受験競争が激化している。
3. 中国の義務教育は,小学校・初級中学較の9年間であるが,進学教育コースの普通高等学較へと職業教育コースの枝分かれは中学校から始まっている。年度は9月に始まり,7月に終わる
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学期制
であり,年度末には復習時間がある。
4.小学校の教科は,「国語・数学・思想品徳・自然・体育・音楽・美術」をベースに,3年生から「労働」が,4年生からは「社会」が設置される。したがって,家庭科という教科はなく,関連内容は「社会」と,特別活動のなかの「興味小組」で取り上げられるだけである。
5. 衣生活教育に関する実態調査の結果では,「洗い方」「ボタンのつけ方」以外の「洗剤の使い方」「縫い方」「縫い方の名前」「繊維の種類」に関する基礎的な知識については,日本の児童の方が中国より正解率が高く,日本の家庭科教育の成果が明らかになった。
6. 「服を買う時,気にかけること」
*では,日本では「値段」「耐久性」「着心地」が上位にあるのに対して,中国は「何となく」「店」「人に勧められた物」などが上位であり,主体性に欠ける実態がうかがわれ,家庭科学習の効果が感じられた。
7. 衣生活の技能では,両国とも日常的には洗濯に関する行為は一人でできる子どもが多いが,「手縫い」「ミシン縫い」「アイロンかけ」は,日本の子どもの方が「できる」の回答率が高く,学校での学習成果が現れていた。
8. 一方,家庭科教育のない中国の小学生は,衣生活教育に対する関心が全般的に日本より顕著に高く,学校教育に期待を持っており,特に男子児童で顕著であった。
* 日本家庭科教育学会が2001年に実施した「家庭生活についての調査」項目のうち,「衣に関する意思決定」項目を使用した。 最後に,衣生活教育に関する調査をするにあたってご助言・ご指導いただいた高知大学教育学部の田村和子先生に謝意を表します。
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