本研究の目的は,不安喚起状況下において,事前情報としての間接体験が直接体験時の心拍変化にどのような影響を与えるのかを検討することである。間接体験としては,直接体験と同一状況下で電撃を受けているモデルの映ったビデオを観察させた。得られた結果は以下の通りである。(1)間接体験時と直接体験時の心拍水準には,あまり明確な対応はみられていない。ただし,間接体験時に著しく高い心拍水準を示すものは,直接体験時により高い心拍水準を示すことがわかった。〈2)間接体験時に上昇型の心拍パターンを示すと直接体験時の心拍水準が抑制され,間接体験時に不規則型の心拍パターンを示すと直接体験時の心拍水準が増加することがわかった。(3)間接体験時と直接体験時の心拍パターンの類似性が高い場合には,直接体験時の心拍水準が抑制されるが,両体験間の心拍パターンにちがいがみられるほど,直接体験時の心拍水準が高くなる傾向がみられた。このように,間接体験時に適応的な反応パターンがみられた場合には,直接体験時の不安を抑制する効果があることが示唆された。
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