腎周囲後腹膜が原発と考えられた極めて稀な Cystic mesothelioma の1例を経験した. 症例は70歳, 男性. 1989年3月頃より右側腹部違和感が出現, CT, ECHOにて右腎周囲に多発性嚢腫が発見され当科を紹介された. X線CTで右腎周囲および後腹膜腔に大小多数の嚢腫を認め, 腎および腸腰筋への浸潤が疑われた. MRIでは嚢腫が右腎を囲むように後腹膜腔に広がり, 腎実質では所々に多数の圧痕を認め, 変形がみられた. 後腹膜嚢胞性腫瘍の診断にて同年6月2日手術. 右腎を含む嚢胞性腫瘍を摘出した. 摘出標本は大きさ16×10×8cm, 重さ630g. 腎表面は, 透光性を有する薄い外壁からなる径10mm前後の多房性病変で, 嚢胞内容は漿液性透明であった. 腎割面は嚢胞性病変の腎実質圧排所見のみで, 浸潤所見はなかった. 嚢胞壁を被覆する細胞は, 単層立方様上皮で, 部分的に hobnail 状を呈するものが認められ, 悪性所見はなかった. 嚢胞上皮は粘液染色の結果, 部分的にPAS陽性, Alcian-blue 弱陽性の像がえられた. 免疫染色では, cytokeratin, vimestin 陽性, EMA弱陽性, lectins 陰性であった. 以上より, 本腫瘍は腎周囲後腹膜原発のびまん性 benign multicystic mesothelioma と診断した. 術後4ヵ月のX線CTで再発が認められ, 1990年3月放射線治療 (40Gy) を施行したが, 嚢腫は増大傾向にあり, 臨床的には悪性の経過を辿っている. 本症例はびまん性 benign cystic mesothelioma として本邦第1例目と思われた.
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