エチオピア南部においてここ30年来追究されてきた民族間関係をめぐるエスノシステム論は,周辺社会を国家の中心との関係において捉えようとする中心/周辺パラダイムの登場によって新たな展開が期待されている。本稿はこの両者の接合を試みるため,オモ系農牧民バンナを例にとリ,バンナがこの100年間に経験したあらゆるタイプの戦いと,そこで用いられてきた銃について論じる。まず人々によって記憶される過去の銃が,いずれもエチオピア国家が諸外国より入手したもので,これらが数年から数十年という時間差をおいてバンナに流入してきた事実を明らかにし,ついでこうした銃がバンナによる国家への抵抗活動に使用されてきた経緯を紹介する。また銃の導入が,バンナをめぐる近隣諸民族との戦いに変化をもたらしたことを指摘し,従来自律的なシステムとして捉えられてきた民族間関係が,銃という外的要因によって変化しうることを明らかにする。
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