日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高齢者にみられた心室中隔基部肥厚例の検討
信岡 祐彦長嶋 淳三藤巻 力也杉原 浩今井 行子榊原 雅義三宅 良彦村山 正博
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1998 年 35 巻 9 号 p. 686-690

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抄録

日常臨床上, 断層心エコー図で心室中隔基部に限局した心筋肥厚を呈する症例にしばしば遭遇する. 心室中隔基部は左室の他の部位とは異なった心筋肥厚様式をとることが指摘されており, このような変化は加齢に伴う生理的変化としても出現してくるとされているが, その血行動態や臨床的意義についての検討はなされていない. 今回, 高齢者 (70歳以上) を対象として, 心室中隔基部に限局した心筋肥厚を呈する症例の臨床的意義について, 心機能の良否や左室流出路狭窄の有無などの血行動態を含めた検討を行った.
傍胸骨左室長軸断層図で, 全心周期を通じ心室中隔基部に限局した心筋肥厚を呈する例を対象とした. 70歳以上の高齢者における頻度は96例中, 6例 (6.3%) であった. 臨床所見では全例が高血圧の病歴を有していた. 心エコー所見では左房径は29~42mm, 平均36mmと軽度から中等度に拡大していたが, 左室内腔の拡大や狭小化がみられた例はなかった. また心筋梗塞の既往を有する1例を除き, 左室壁運動に異常はなく収縮機能の指標も正常であった. 拡張期に大動脈と心室中隔がなす角度 (AS角) は95~120度, 平均106.7度であった. Doppler 所見では左室流入血流速度波形における心房収縮期/拡張早期最大血流速度比の増大, 減速時間の延長など左室拡張機能障害を示唆する所見がみられたが, 左室流出路の最高血流速度は正常範囲であり, カラー Doppler 上も左室流出路狭窄を示す所見は認められなかった.
今回の検討から高齢者にみられる心室中隔基部肥厚は高血圧性変化あるいは高血圧性心肥大の一型である可能性が考えられた. また断層心エコー上, 左室流出路に突出するような形態を示すものの血行動態的には左室流出路狭窄はないものと考えられた.

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