高齢がん患者の在宅療養は,がんそのものに加え,フレイル,認知機能低下,多疾患併存,社会的孤立など,複雑で多面的な課題を抱える患者にとって,生活の質と尊厳を維持しながら過ごすための重要な選択肢である.多くの患者が「住み慣れた自宅で最期まで過ごしたい」と希望する一方で,医療・介護資源の地域間格差,制度上の縦割り構造,診療報酬制度の不備,多職種間の連携体制の未整備といった課題が,在宅療養の実現を困難にしている.
在宅療養を支えるには,腫瘍医と老年科医の協働を基盤としつつ,訪問診療医,看護師,薬剤師,ケアマネジャー,リハビリ職,福祉職など多職種が,患者の希望・価値観に基づく共通の目標を共有しながら,互いの専門性を補完し合うチーム医療体制の構築が不可欠である.さらに,アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の早期導入,情報通信技術(ICT)を活用した遠隔連携や多職種合同カンファレンス,継続的な教育・研修体制の整備も,質の高い在宅支援の実現には重要な要素である.
一方で,現行の診療報酬制度や地域医療構想において,がん患者の在宅療養は明確に位置づけられておらず,人的資源やICT基盤の整備状況にも地域差が大きい.これにより,患者の意向に反して病院での最期を迎えざるを得ないケースも少なくない.
今後は,老年医学と腫瘍学の協働を中核に据え,多職種連携による包括的かつ持続可能な質の高い支援体制を構築するとともに,それを制度的・政策的に支える環境整備が急務である.さらに,高齢者総合機能評価やACPの有効性,多職種連携のアウトカムへの影響などに関する研究を推進し,エビデンスに基づいた実践と政策立案を支えることが求められる.
超高齢社会を迎え,加齢性疾患に対するリハビリテーションにおいても認知症の予防が重視されるようになってきた.予防には,発症予防と進行予防の両方が含まれ,軽度認知障害や認知症においては,いずれの予防も重要である.リハビリテーションは進行予防の手段として位置づけられる非薬物療法に属し,薬物療法と並ぶ認知症治療の両輪の一つであるが,軽度認知障害の時期には,認知症の発症を予防するための手法としても実施されている.すなわち,リハビリテーションは,軽度認知障害の時期から認知症発症後に至るまで長期的に取り組むことができるアプローチであり,認知症の治療やケアにおいては不可欠な要素である.しかし,認知症に対する非薬物療法のエビデンスは依然として限られており,リハビリテーションの現場では,病態や環境,病期などに応じて治療者が手法を選択しているのが現状である.
本稿では,加齢性疾患,なかでも認知症のリハビリテーションの動向を概説し,「認知症と軽度認知障害の人および家族介護者への支援・非薬物的介入ガイドライン2022」に基づいて,運動療法や音楽療法,コミュニケーション支援,家族介護者へのアプローチなどに関するエビデンスを紹介する.
人工聴覚器は数ある人工臓器のなかでも最も成功した医療機器として,通常の補聴器では十分な効果が得られない難聴者への福音となっている.わが国では高度~重度感音難聴に対する人工内耳,伝音~混合性難聴に対する人工中耳や骨導インプラントが認可されており,高齢者の手術例も増加傾向にある.術後の聴覚管理には高度なスキルが要求されるため,聴覚に特化した言語聴覚士と連携した医療体制の整備が不可欠である.
高齢難聴者は,初診時の訴えが類似しているものの,実際には難聴が原因で諦めていることが少なからずあり,補聴器適合の進捗とともに変化していくことが多い.高齢難聴者は中年層と比較して残存聴力が乏しく,装用者操作などが定着しにくい傾向があり,時間と手間をかけて適合を図る必要がある.また,補聴器適合は装用効果を維持するために購入後も継続しなければならず,聴覚管理と補聴器のメンテナンスを継続的に行う必要がある.
加齢性難聴の当事者の立場から,経過や補聴器装用体験を報告し,理解を求めるとともに難聴者へのかかわり方を提言する.45歳でs音の聴取困難から耳掛け型補聴器の場面装用を開始,50歳代で語音の聴き誤りが顕在化し補聴器常時装用となった.58歳で雑音下での聴取困難軽減のため補聴援助システムを会議で使用した.年代ごとの聞こえと生活必要性に応じた補聴器使用により生活上の困難さが軽減できた.
当科では,行政と連携し,「高齢者の難聴および誤嚥性肺炎の理解と対応に関する普及啓発モデル事業」を立ち上げ,地域在住高齢者を対象とした加齢性難聴の啓発活動を展開している.主な取り組みとして,「通いの場」等において,加齢性難聴に関する講話および簡易聴力チェックを実施し,令和4・5年度の2年間で13市町村・39会場にて計1,371名が参加した.講話内容や配布資料,講話時間については,参加者アンケートで概ね良好な評価が得られたが,長期的な行動変容への影響は今後の検討課題である.
さらに,難聴の早期発見を目的として,当科では加齢・老年病科と共同で,モバイル端末で簡便に実施可能な聴力評価アプリを開発している.本アプリは,雑音下での語音聴取能を評価し,実臨床でのスクリーニングへの応用を想定している.健聴者・難聴者を対象とした検証では,アプリスコアと気導聴力閾値の間に有意な負の相関を認め,また平均聴力40 dB HLを基準とした群間比較でも,聴力低下群でスコアの低下が確認された.これらの結果より,本アプリは加齢性難聴の簡便な評価ツールとしての有用性が示唆された.
目的:過疎地域と指定された地域で生活している障害者手帳または指定難病医療受給者証を所持している者を対象に障害者の持つ孤独感と,フレイルを含めた健康状態や生きがい感,生活行動との関連について明らかにすることを目的に調査研究を行った.対象と方法:本調査の対象者は無作為抽出法を用い選定した.対象者には郵送法または就労継続支援事業所を通して各個人に配布される質問紙調査を実施した.対象者をUCLA孤独感尺度得点(以下UCLA得点)の中央値により高値群と低値群の2群に分類し,年齢,障害発症年齢,Body Mass Index(BMI),についてはMann-WhitneyのU検定を,それ以外の項目についてはχ二乗検定またはFisherの直接確率検定を行った.続いて,UCLA得点の高値と低値に関連する要因について検討するために,多変量解析を行った.結果:回答が得られたのは173名(有効回答率100%)であった.Hosmer-Lemeshowの適合度は0.94で,UCLA得点が高くなる因子として,楽しみや生きがいを持って生活していると思えない気持ちの高さ(OR=2.169,信頼区間=1.371~3.431,P=0.001),およびフレイルに該当すること(OR=5.528,信頼区間=2.497~12.24,P<0.001)が有意な因子として抽出された.考察:過疎地域と指定された地域地域で生活している,孤独感の高い地域在住障害者が介護保険サービスに移行する時期には,現時点よりも更にフレイル状態が高まっている可能性が考えられる.これを予防するためには現時点の障害者福祉サービスにおいて,孤独感を軽減すると期待されている社会的処方の考えを取り入れることが効果的かもしれない.
目的:サルコペニアと骨粗鬆症が複合したオステオサルコペニアは,要介護状態の主要因であるフレイルや骨折・転倒のリスク因子となるが,身体的,精神・心理的,社会的側面を含む広義のフレイルとの関連は明らかでない.本研究は,自立した地域在住高齢者を対象として,広義のフレイルとオステオサルコペニアとの関連を明らかにすることを目的とした.方法:要介護認定のない65歳以上の地域在住高齢者521名を解析対象とした.フレイルは,基本チェックリスト(KCL)を用いて調査し,7点以上をフレイルと判定した.サルコペニアは,Asian Working Group for Sarcopenia 2019に基づき判定した.骨量は定量的超音波法装置にて測定し,young adult mean(YAM値)が70%以下を低骨量と判定した.サルコペニアおよび低骨量の有無とフレイルとの関連については,フレイルの有無を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析を実施した.また,サルコペニアと低骨量の有無による4群の特徴を検討するため,KCLの下位項目を比較した.結果:対象者のフレイル割合は,フレイル群17.7%,非フレイル群82.3%であった.フレイルとの関連については,低骨量単独,サルコペニア単独では関連せず,オステオサルコペニアのみフレイルと関連(オッズ比3.324,95%信頼区間1.308~8.448)を示した.KCLの下位項目の比較では,オステオサルコペニアは,運動器の機能,栄養状態,閉じこもり,抑うつ気分で不良な値を示した.結論:サルコペニアと低骨量が複合すると広義のフレイルと関連することが明らかとなった.また,介入方法として身体的側面のみならず,抑うつや閉じこもりといった精神・心理的,社会的側面を含む包括的アプローチが必要であることが示唆された.
目的:認知症の人や認知機能低下を起こしやすい患者が何らかの疾患で医療施設に入院した際,せん妄の発症,転倒,自立度の低下などを認めるケースが散見され,認知症ケア加算による認知症ケアチーム(DST)ではそれらを予測し予防することが求められる.しかし,その運営には課題も多いと考えられる.今回はアンケート調査により各施設のDSTの取組みの振り返りと問題点の抽出を目的とした.方法:認知症認定看護師が在籍する全国1,032施設に対して自記式の質問紙調査を行った.調査票の調査項目の結果に対して適宜各比率を算出した.2群の割合比較にχ2検定を行い,P<0.05を有意水準とした.本調査は当院倫理委員会の承認を得て実施した.結果:422施設から回答を得て(有効回答率40.9%),そのうち292施設がケア加算1であった.主な質問項目と回答結果を示す(頻度の高い項目の施設数).:病床数(200以上~500未満:171),参加者の職種(4種類以上の参加:248),対象患者数(30名以上100名未満/月:164),カンファレンスの実施頻度(1回/週:240),認知機能低下のアセスメントの実施方法(HDS-R:141),薬剤に対する調整の提案(あり:279),リハビリの介入の提案(あり:243),身体抑制の軽減の提案(あり:274),栄養アセスメントや改善の提案(あり:200),退院調整の提案の実施(あり:233).DST患者選定方法で院内からの依頼がある場合とない場合の両者で群間比較を行った.依頼がある群は121(41.4%),依頼のない群は171(58.6%)で依頼のある群は依頼のない群に比べ少ない傾向であった.介入に関連する各質問で2群間比較,χ2検定を行ったもののいずれも有意差は認めなかったが,依頼のあった群の方が栄養のアセスメントの提案以外の他の項目で介入提案の頻度が高い傾向であった.結論:DST患者選定方法で院内から依頼のあった方が薬剤調整,リハビリ介入提案などの頻度が高い傾向であった.これらの結果をDST実施機関で共有することにより,よりよいDST活動につながるものと考えられる.
症例は88歳女性.他院で非結核性抗酸菌(NTM)症疑いとして経過観察されていた.1年で約9 kgの体重減少を認め,精査目的に当院へ紹介された.気管支洗浄液の培養でMycobacterium aviumを認め,NTM症として抗菌薬治療を開始した.3カ月後の胸部CTで左舌区に腫瘤影を認め,再度気管支内視鏡検査を行った.病理検査でびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断し,化学療法により左肺門部腫瘤は縮小した.高齢者でNTM症に悪性リンパ腫を合併した症例を経験した.いずれも患者の免疫能が発症に関与するため,超高齢社会において,両者の合併が増える可能性があり,精査は慎重に進める必要がある.