日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
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目次
総説
老年医学の展望
  • 楠 博, 新村 健
    2019 年 56 巻 2 号 p. 107-114
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/05/16
    ジャーナル フリー

    フレイルは高齢者において全身の生理的予備能が様々な要因により低下することで,ストレスに対する脆弱性が増加し,要介護状態におちいりやすい状態と定義されている.心不全患者では主に心拍出量の低下による筋肉量,筋力の低下から身体的フレイルの構成要素であるサルコぺニアを来たしやすいことが報告され,心不全とフレイルとの相互作用が注目されてきている.一方で,共通の病態生理学的基盤のもと認知機能低下と身体的フレイルが同時に発症する病態として,コグニティブ・フレイルという概念が提唱されている.

    心不全,フレイル,認知機能障害はそれぞれ独立した病態に見えるが,低栄養,炎症,神経内分泌異常などの共通した基盤の上に成り立っており,相互に影響しあいながら悪循環を形成している.その悪循環を断ち切るためには,まだ可逆的と考えられるプレフレイルや軽度認知機能障害(MCI)の段階で適切な介入をするべきである.介入方法としては心不全に対する薬剤治療のほかに,運動療法,栄養療法がフレイル,認知機能障害に対して有効であることが明らかになってきた.

    高齢の心不全は時に根治が望めない進行性かつ致死性の病態であるため,終末期医療を視野に入れた意思決定の支援を行う必要がある.超高齢心不全患者がさらに増加していくことが予想されるなか,プレフレイルやMCIの段階で早期に発見し,心不全に対する薬物治療の他に,適切な運動療法,栄養療法を行い,身体機能,認知機能の維持を目指すことは意義が大きい.ADLレベルの維持・向上に努めるために医療職だけでなく多職種の協力体制を構築した全人的かつ包括的な医療の提供が求められている.

特集
原著
  • 鈴木 みずえ, 鈴木 美恵子, 須永 訓子, 吉村 浩美, 宗像 倫子, 森本 俊子, 伊藤 靖代
    2019 年 56 巻 2 号 p. 146-155
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/05/16
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,急性期病院において看護師が実践する身体拘束の実施の関連要因として看護師の看護実践に関する自己評価などを用いて明らかにすることである.研究方法:本研究は,2016年4月~2017年3月に,H市における4病院(7対1の500床以上)の病棟看護師を対象とした.急性期病院の身体拘束において,体幹帯の使用,ミトン型手袋の着用,車椅子などの腰ベルトの使用,介護衣の着用,ベッド柵の使用,向精神薬などの内服に関する6項目に対して評価などを依頼した.結果:身体拘束の実施を目的変数とした重回帰分析では,急性期病院の認知障害高齢者のための看護実践自己評価尺度の「起こりうる問題を予測した社会心理的アプローチを含めたケア」,「認知機能と本人に合わせた独自性のあるケア」,看護実践能力自己評価尺度(CNCSS)の「質の改善」が有意に身体拘束を減少させていた.結論:急性期病院におけるパーソン・センタード・ケアや臨床倫理を基盤とした看護実践が身体拘束を減少させている可能性が示唆された.今後,病院における看護実践に関する安全管理と患者の尊厳尊重のバランスなどの課題が明らかになった.

  • 白山 靖彦, 湯浅 雅志, 樫森 節子, 北村 美渚, 後藤 崇晴, 寺西 彩, 柳沢 志津子, 竹内 祐子, 市川 哲雄, 臼谷 佐和子
    2019 年 56 巻 2 号 p. 156-163
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/05/16
    ジャーナル フリー

    目的:認知症者やその家族の心情を再現するバーチャルリアリティ(以下「VR認知症」)装置を用いて,地域住民の認知症に対する理解の促進と偏見の軽減・除去に関する有用性を実証した.方法:T県N町のA地区85名を介入群,B地区95名を非介入群としてVR認知症体験をA地区のみ実施し,介入前後に35項目の理解度・偏見度テストを両地区とも行った.結果:分析対象としたのは,A地区77名,B地区82名であり,性別,年齢,理解度・偏見度テストにおける介入前のベースラインは近似していた.A地区では35項目中9項目(理解度7項目,偏見度2項目)に,B地区では2項目(理解度1項目,偏見度1項目)に有意な得点上昇が認められた.VR認知症の学習効果として,有意に得点が上昇した項目数を単純に比較した場合,A地区は9/35(25.7%),B地区は2/35(5.7%)であり,A地区の方が20%以上高かった.また,B地区に比べ,A地区の方が認知症に対する理解度と偏見度との関連が体験後に高まっていた.結論:VR認知症は,地域住民における認知症者に対する理解の促進および偏見の軽減・除去にとって有用な技術である一方,VR認知症の一般化をより図る上で,他の普及啓発方法との比較検討,VR装置やコンテンツの進化が望まれる.

  • 大島 浩子, 竹内 さやか, 三宅 愛, 藤崎 あかり, 大久保 直樹, 三村 絵美, 久田 真未, 水野 伸枝, 猪口 里永子, 櫻井 孝 ...
    2019 年 56 巻 2 号 p. 164-170
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/05/16
    ジャーナル フリー

    目的:看護師の質問指標や,転倒評価測定によらない転倒危険度判定の科学的成績は極めて乏しい.本研究では,看護師が得た視覚情報による転倒危険度判定と既存の転倒危険度関連検査を同時に行い,判断の妥当性を検証することを目的とする.方法:国立長寿医療研究センターもの忘れセンター受診の初診患者を対象に,もの忘れセンター勤務の8名の看護師のうち当番の2名が,転倒危険度を外来待合で10分間の観察後,別々に3段階で判断し記録した.評価者間一致率は8人からランダムに(勤務表で)選ばれた二人が判定.既存の転倒危険度測定評価は非看護師が同日に測定.データ分析は判断,測定に関わらない研究者が解析した.結果:転倒危険度判断は,転倒リスク評価であるFall Risk Index,Up and Goテスト,開眼片脚立ち試験,足首角度計と有意な相関を示した.危険度判定3群との比較では,転倒危険度が高いと判断されるほど,有意にJ-CHS基準のフレイル判定率が高かった.結論:看護師の視覚情報による転倒危険度の判断は筋力,歩行速度,バランスなど転倒危険要素を総合的に判断していると示唆される.

  • 間辺 利江, 水上 勝義, 松岡 珠実, 小川 倫弘, 兼坂 岳志, 谷口 知恵, 山本 左近, 橋詰 良夫, 大原 弘隆, 山本 孝之, ...
    2019 年 56 巻 2 号 p. 171-180
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/05/16
    ジャーナル フリー

    目的:高齢者の薬物治療は多剤併用による有害事象の出現など課題が多い.しかし認知症高齢者の薬物治療の影響についての詳細な報告は未だ乏しい.方法:愛知県豊橋市の病院に,2012年1月~2016年12月に入院,死亡退院し,剖検により臨床神経病理学的に認知症と確定診断された患者を対象に後ろ向き観察研究を行った.基本属性,入院時臨床症状,入院前一年間のBPSD・老年症候群等を収集,対象患者を入院時持参の薬剤数で二群間に分け(≥5剤/多剤併用vs. ≤4剤/非多剤併用)比較した.多剤併用及び慎重に投与すべき薬剤の生命予後期間への影響をKaplan-Meier法及びCox回帰分析にて推定した.薬効分類は薬価基準収載医薬品コードに,慎重に投与すべき薬剤は「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会編集)」に従った.結果:対象者76名の平均持参薬剤数は4剤であった.内,39.5%が多剤併用であった.観察項目の二群間比較では老年症候群の歩行障害が多剤併用群(93.3%)に有意に多かった.慎重投与薬剤の処方は多剤併用群に有意に多かった(p<0.001).Kaplan-Meier法による生存期間の二群間比較では≥5剤群が≤4剤群より短い傾向が示された(p=0.067).生命予後期間への影響は,多剤併用で短縮リスクが高い傾向にあり,これは性別及び入院時年齢での調整でより顕著であった(調整ハザード比,1.631;95%CI,0.991~2.683;p=0.054).慎重投与薬剤の有無及び,睡眠鎮静剤,抗不安剤,精神神経用剤,その他の中枢神経用薬,ベンゾジアゼピン系薬剤は,生命予後への影響は観察されなかった.結論:本研究により人生の終末期にある認知症高齢者への多剤併用は,生命予後短縮のリスクとなる傾向が示唆された.

  • 志堅原 隆広, 石山 大介, 堅田 紘頌, 佐々木 祥太郎, 畑中 康志, 小山 真吾, 多田 実加, 最上谷 拓磨, 松永 優子, 石森 ...
    2019 年 56 巻 2 号 p. 181-187
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/05/16
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,5回立ち座りテストを用いて入院心疾患患者のサルコペニアの有無を判定するための基準値を明らかにすることである.方法:対象は,2015年4月から2016年3月に入院した65歳以上の心疾患患者71名(平均年齢78.0±7.9歳,女性42.3%)とした.調査項目は,サルコペニアの有無と5回立ち座りテストとした.サルコペニアは,Asian Working Group for Sarcopeniaのアルゴリズムにしたがって評価した.統計解析は,サルコペニアの有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を実施した.独立変数は,5回立ち座りテストとし,共変量は,年齢,入院契機病名,New York Heart Association分類,Charlson併存疾患指数,細胞外水分比とした.また,サルコペニアを判定するための5回立ち座りテストのカットオフ値については,Receiver Operating Characteristic(ROC)曲線を用いて算出した.統計学的有意水準は5%とした.結果:サルコペニアと判定された対象者は25名(35.2%)であった.多変量ロジスティック回帰分析の結果,5回立ち座りテストは,サルコペニアの有無に対して有意な関連を認め,単位変化量を1.0秒としたときのオッズ比(95%信頼区間)は,1.31(1.04~1.65)であった(P=0.024).また,ROC曲線によって算出された5回立ち座りテストのカットオフ値は10.9秒であり,その感度は80.0%,特異度は70.0%,曲線下面積は0.83であった.結語:入院心疾患患者におけるサルコペニアは,5回立ち座りテストによって判定できる可能性が示唆され,そのカットオフ値は10.9秒であった.

  • 木下 かほり, 佐竹 昭介, 西原 恵司, 川嶋 修司, 遠藤 英俊, 荒井 秀典
    2019 年 56 巻 2 号 p. 188-197
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/05/16
    ジャーナル フリー

    目的:外出低下は身体機能や抑うつの影響を受け,いずれも低栄養と関連する.低栄養の早期兆候である食事摂取量減少と外出低下との関連を検討した.方法:老年内科外来を初診で受診した高齢者で認知症あり,要介護認定あり,施設入所中,急性疾患で受診,調査項目に欠損がある者を除外し463名(男性184名,女性279名)を解析した.調査項目は性,年齢,BMI,服薬数,基本チェックリスト,MNA-SFとした.外出週1回未満を外出頻度低下とし,過去3カ月に中等度以上の食事摂取量減少ありを食事摂取量減少とした.外出頻度低下有無で2群に分け調査項目を比較した.目的変数を食事摂取量減少あり,説明変数を外出頻度低下ありとしたロジスティック回帰分析を行った.調整変数は,性,年齢,および,外出頻度低下有無2群間に差を認めた項目で多重共線性のなかった服薬数,基本チェックリストの栄養状態項目得点,口腔機能項目得点,身体機能項目得点,うつ項目得点とした.結果:平均年齢は男性79.6±5.9歳,女性79.9±6.1歳,外出頻度の低下は104名(22.5%).外出頻度低下あり群では外出頻度低下なし群と比べて,高年齢で服薬数が多く,MNA-SF合計点が低く,基本チェックリスト合計点が高かった(すべてp<0.05).ロジスティック回帰分析では性,年齢,服薬数,栄養状態項目得点,口腔機能項目得点で調整後,食事摂取量減少ありに対する外出頻度低下ありのオッズ比2.5,95%信頼区間1.5~4.4,さらに身体機能項目得点およびうつ項目得点で調整後のオッズ比2.0,95%信頼区間1.1~3.6であった.結論:生活機能の自立した高齢者では多変量調整後も外出頻度低下は食事摂取量減少と関連した.食事摂取量減少はエネルギー出納を負に傾け体重を減少させ低栄養をきたす.低栄養の早期予防には日常診療で高齢者の外出頻度に注目することが重要である.

  • 内藤 喜隆, 横谷 弘子, 姫野 麻菜美, 石口 祥夫, 森田 孝子, 大久保 優, 玉木 俊治, 池田 知聖, 清水 一紀
    2019 年 56 巻 2 号 p. 198-203
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/05/16
    ジャーナル フリー

    目的:認知症ケアサポートチームの活動を振り返り,活動の報告と今後の課題について検討する.対象・方法:2017年1月1日~12月31日でD-castに依頼がきた350名を対象とした.チーム介入時と介入終了時に認知症認定看護師が認知症高齢者の日常生活自立度評価を施行し介入前後での変化とチーム介入までの日数,チーム依頼の内容,在院日数を検討した.結果:対象者の年齢では高齢者(81±9歳)の依頼が多く,疾患別では心不全94名(27%),外科カテーテル治療45名(13%)の依頼が多かった.依頼目的は認知症の中核症状が40%,せん妄発症と予防が36%,その他24%であった.認知症高齢者の日常生活自立度の介入前後では改善が29名(16%),維持が165名(66%),低下は46名(18%)であった.低下患者の介入時評価は該当なしが26名(57%),Iが12名(26%),IIaが1名(2%),IIbが5名(11%),IIIaが2名(4%)であった.チーム介入までの日数は該当なし,I,IIと比較的軽度の症状の患者の方が,IIIの患者と比べてチーム介入が遅延し,在院日数も長かった.結論:高齢・認知症患者はせん妄,中核症状の増悪が病棟対応に影響する事が多かった.軽度認知症患者ではチーム介入が遅延し,在院日数が長くなる傾向があるため,今後は入院早期に軽度認知症患者を評価できる取り組みと対策が重要.

症例報告
  • 古見 嘉之, 清水 聰一郎, 小川 裕介, 廣瀬 大輔, 高田 祐輔, 金高 秀和, 櫻井 博文, 前 彰, 羽生 春夫
    2019 年 56 巻 2 号 p. 204-208
    発行日: 2019/04/25
    公開日: 2019/05/16
    ジャーナル フリー

    一般的にN-methyl- tetrazolethiol(NMTT)基を持つ抗菌薬による凝固能異常や腸内細菌叢の菌交代に伴うVitamin K(VK)欠乏による凝固能異常がよく知られている.今回我々は,NMTT基を有さない抗菌薬で,絶食下で凝固能異常をきたした症例を経験したので,報告する.

    症例は91歳,男性.体動困難を主訴とし,気管支炎による慢性心不全急性増悪の診断にて入院.禁食,補液,抗菌薬に加え利尿剤にて加療.第3病日,左前頭葉出血を発症し,保存的加療,末梢静脈栄養を10日間投与後,中心静脈栄養を投与した.抗菌薬の投与は14日間の後,終了となった.経過中28病日,カテーテル関連血流感染を発症した為,中心静脈栄養から末梢静脈栄養に変更し,バンコマイシン(VCM),セファゾリン(CEZ)が投与された.投与初日のプロトロンビン時間-国際標準比(PT-INR)は1.2だったが,徐々に上昇し第35病日目に7.4と延長.対症療法としてメナテトレノン10 mg,新鮮凍結血漿(FFP)を投与した.血液培養にてメチシリン感受性コアグラーゼ非産生ブドウ球菌が検出され,VCMは中止とした.中止後第36病日目でPT-INRが1.1まで改善するも第42病日目では1.9まで上昇したため,CEZによるVK欠乏と考え,再度VK,FFPの投与を行い改善した.CEZが終了後,PT-INRは正常範囲内に改善した.Methyl-thiadiazole thiol(MTDT)基を持つCEZは稀ではあるが凝固因子の活性化を阻害すること,長期間の禁食下での抗菌薬投与は腸内細菌による内因性のVKの産生抑制により凝固能異常を招く可能性があり,この双方が本症例では関与する可能性が考えられた.凝固能の定期的検査によるモニタリングが必要である可能性が示唆された.

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