日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
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目次
老年医学の展望
  • 東 浩太郎
    2025 年 62 巻 2 号 p. 117-125
    発行日: 2025/04/25
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル 認証あり

    骨粗鬆症は症状に乏しく,治療可能であるという知識も一般に浸透しておらず,約9割の患者が治療されていないと見積もられる.椎体骨もしくは大腿骨近位部の脆弱性骨折の既往により骨密度に関わらず骨粗鬆症と診断できるという骨粗鬆症の診断基準に関する知識は患者を見逃さないために重要である.骨粗鬆症の診断基準を満たす患者では,他疾患による続発性骨粗鬆症をまず鑑別し,原因に応じて適切な治療法を選択することが大切である.原発性骨粗鬆症の治療はガイドラインに従い,骨代謝マーカーや併存疾患に応じて適切な治療薬を選択する.治療薬の副作用の知識も重要であり,必要な身体所見や検査値をモニターすることが重要である.併存疾患や日常生活動作(ADL)によっては,骨粗鬆症治療薬の使用が望ましくない場合もあり,転倒予防のための非薬物的な工夫により,骨折予防に努める.

特集
KDIGO 2024 CKDガイドラインをふまえた高齢者のCKDマネジメント
原著
  • 嶋村 空良, 片寄 亮, 大倉 美佳, 田中 早貴, 荒井 秀典, 荻田 美穂子
    2025 年 62 巻 2 号 p. 150-158
    発行日: 2025/04/25
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル 認証あり

    目的:高齢期における国外への移住は認知機能に影響するという報告がある.一方,国内での転居・転出であっても,築いてきた地域コミュニティから分断されることで認知機能に悪影響を及ぼしている可能性がある.そこで,本研究では,居住年数が基本チェックリスト(以下,KCL)の認知機能領域の悪化に与える影響を性・地域活動別に検討した.方法:兵庫県香美町に在住の65歳以上を対象に2013年及び2017年に実施された自記式質問紙による悉皆調査のいずれにも協力の得られた3,605名のうち,KCLの認知領域3項目中1項目以上該当した者をKCLの認知機能領域の悪化(以下,認知機能低下)と定義した上で,2013年時点での認知機能低下がなく,主要項目に欠損のない2,051名を本研究の分析対象者とした.2013年時点の居住年数を5年以内,6年以上(参照水準)で2値化し,2017年時点の認知機能低下を判定した.性・地域活動で層別化し,二項ロジスティック回帰分析を用いて居住年数による認知機能低下の調整オッズ比と95%信頼区間を算出した.調整変数は年齢,運動機能低下,うつ状態とした.結果:女性は1,299名(63.3%),平均年齢(±標準偏差)は74.1±6.2歳,認知機能低下は514名(25.1%)であった.女性において居住年数5年以内による認知機能低下の調整オッズ比と95%信頼区間は,地域活動がある集団で1.65(0.55~4.91),地域活動がない集団で3.86(1.33~11.24)であった.一方,男性では地域活動あり群で統計学的有意差は認められず,地域活動なし群では認知機能低下者が0名であり,解析に至らなかった.結論:地域在住高齢者において,居住年数が5年以内かつ地域活動に参加していない女性は4年後のKCLの認知機能領域の悪化リスクが増加する可能性が示唆された.

  • 井田 諭, 今高 加奈子, 勝木 啓太郎, 村田 和也
    2025 年 62 巻 2 号 p. 159-165
    発行日: 2025/04/25
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル 認証あり

    目的:高齢糖尿病患者における食欲低下と高次生活機能との関連性を検証すること.方法:対象は伊勢赤十字病院外来通院中の60歳以上の糖尿病患者とした.高次生活機能の評価には,自己記入式質問紙によるTokyo Metropolitan Institute of Gerontology Index of Competence(TMIG-IC)を用いた.食欲低下の測定には日本語版Simplified Nutritional Appetite Questionnaire(SNAQ)を用いた.従属変数をTMIG-IC得点,説明変数を食欲低下及び調整変数とした重回帰分析を用いて,食欲低下の高次生活機能に関する標準化回帰係数(β)を算出した.結果:492例が本研究の解析対象となった.食欲低下ありは17%,TMIG-IC得点は10.6点であった.食欲低下なしを基準とした場合,食欲低下のTMIG-IC得点に関する調整後βは-0.141(P=0.004)であった.結論:高齢糖尿病患者における食欲低下は高次生活機能低下に関連性が認められた.

  • 渡辺 忍, 木村 晶子
    2025 年 62 巻 2 号 p. 166-177
    発行日: 2025/04/25
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル 認証あり

    目的:インスリン療法を行う要介護高齢者に最も多く利用される訪問介護で行われている支援の現状と課題を明らかにすることを目的とした.方法:6名の訪問介護員に半構造化面接を行い,語られた内容をコード化し,意味内容が近似するものを集約し,サブカテゴリー,カテゴリーとして整理し命名した.面接では,訪問介護員としてインスリン療法を行う要介護高齢者の糖尿病やインスリン注射(糖尿病の注射)に関わった訪問介護サービスでの支援の内容,その際に感じる困難,解決策についての考えを聴取した.結果:訪問介護員の語りから290コードが抽出された.コードを集約して整理したところ訪問介護でインスリンケアサポートを行ううえでの問題点について【医療の代替】や【制度とニーズの乖離】等の8カテゴリー,インスリンケアサポートに関する訪問介護での支援内容については【家族介護の代行】等の7カテゴリー,インスリンサポートを行う上で訪問介護員として今後必要だと考えることとして【訪問介護の専門性の向上】や【インスリンケアサポートのための組織・システム作り】,【医療者との情報共有・連携体制の構築】等の5カテゴリー抽出された.結論:訪問介護員は医療職や家族介護の代わりにインスリンケアサポートを行わざるを得ないことや医療職との連携ができていない状況が語られた.今後,インスリンケアサポートに関する訪問介護員の研修や業務範囲の制度見直しと同時に,在宅ケアに関連する職種間でインスリン療法に関する情報共有を行い,訪問介護員が医療の代行を担わずに済むような連携・協働体制の構築が必要であると示唆された.

  • 吉田 一樹, 沢谷 洋平, 柊 幸伸, 菊池 駿介, 浦野 友彦
    2025 年 62 巻 2 号 p. 178-186
    発行日: 2025/04/25
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル 認証あり

    目的:フレイルと人工膝関節全置換術(TKA)および人工股関節全置換術(THA)の術後成績との関係を調査した報告は非常に少なく,エビデンスの蓄積は喫緊の課題である.本研究は,TKA/THA患者の術前のフレイルの有無が,術後の短期成績に与える影響を明らかにすることを目的とした.方法:2023年12月~2024年9月に実施された前向きコホート研究であり,対象はTKA/THAの予定手術を行った19名(平均年齢73.8歳)とした.手術前日に後期高齢者の質問票とJ-CHS基準によるフレイル評価と機能的自立度評価法(FIM)を評価し,術後1週に再度FIMを評価した.データ解析は,2つの指標で術前のフレイル有無による群分けを行い,術後1週のFIMスコアを比較した.結果:全体19名の内,後期高齢者の質問票が5点以上群は6名(31.6%),J-CHS基準でのフレイル群は7名(36.8%)であった.術前から術後1週にかけてのFIMの変化量において,後期高齢者の質問票が5点以上群(-23.2±10.1点,中央値-19.5点)は5点未満群(-13.8±4.7点,中央値-15.0点)と比較して有意にFIMスコアが低下した(p=0.029).同様に,J-CHS基準でのフレイル群(-23.1±8.8点,中央値-20.0点)は非フレイル群(-13.1±4.4点,中央値-13.5点)と比較して有意にFIMスコアが低下した(p=0.004).加えて,J-CHS基準でのフレイル群は非フレイル群と比較して術後1週時点でのFIMスコアが低値で(p<0.001),FIMスコアが110点未満の人数の割合も有意に多かった(p=0.017).結論:術前のフレイルはTKA/THA術後の短期成績に影響を与える可能性が示唆された.

  • 藤原 聖隆, 中村 光, 桐野 匡史
    2025 年 62 巻 2 号 p. 187-195
    発行日: 2025/04/25
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル 認証あり

    目的:施設入所の認知症高齢者における生活の質とその関連要因について探索する.特に,職員の支援によって変化させることのできる要因について調べ,施設での適切な支援,健康増進活動のあり方について示唆を得る.方法:対象は,筆頭著者が勤務する特別養護老人ホームに連続して3カ月以上入所し,認知症を罹患し,研究参加に同意を得た高齢者68人.QOLの測定はQuality of Life in Late-stage Dementia日本語版(QUALID-J)を使用した.加えて,背景的・身体的・心理的・社会的諸情報を既存の診療情報から抜粋,または筆頭著者による日常行動の観察によって得た.分析方法としては,従属変数をQUALID-J得点,独立変数を上記情報の各項目として解析を行った.収集したデータとQUALID-J得点とのSpearmanの順位相関係数を求め,相関が有意であった変数を独立変数として投入し重回帰分析を行った.結果:QUALID-Jと有意な相関が認められた変数は,疾患数,BMI,握力,下腿周径,食事形態,Barthel Index(BI),Clinical Dementia Rating(CDR),Neuropsychiatric Inventory-NursingHome,コミュニケーションレベル,MMSE,施設入所日数,面会頻度,余暇活動能動参加数,余暇活動合計参加数であった.重回帰分析で取り上げられた説明変数は,BI,余暇活動合計参加数,握力,CDRであった.すなわち,BI,握力が高く,施設内余暇活動に多く参加し,CDR値が低い人ほどQOLが高いという結果であった.結論:施設入所高齢者において,身体的・心理的・社会的要素がいずれも,認知症をもちながら生活する高齢者のQOLを高める要因であることが示された.これらを高める取り組みがQOL向上につながると示唆された.

  • 菊地 雄貴, 中野 英樹, 合田 明生, 葛迫 剛, 森 耕平, 堀江 淳, 白岩 加代子, 安彦 鉄平, 村田 伸
    2025 年 62 巻 2 号 p. 196-205
    発行日: 2025/04/25
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル 認証あり

    目的:本研究の目的は,都市部および農村部在住の高齢女性を対象に,居住地域の違いによってHealth-related Quality of Life(以下HRQOLと略す)とその他の健康関連要因との関連性に差異が認められるか検討することである.方法:本研究の参加者は都市部および農村部在住の高齢者で,除外基準に該当しなかった236名の高齢女性を解析対象とした.HRQOL,身体機能,体組成,疼痛,精神・睡眠状態,認知機能を測定し,各居住地域による2群比較を実施した.さらに,相関分析,重回帰分析を用いて,居住地域ごとにHRQOLの影響要因を検討した.結果:各居住地域による2群比較の結果,都市部と比較して農村部の高齢女性では,教育歴,握力,膝伸展筋力,長座体前屈距離,片脚立位保持時間,歩行速度,骨格筋量が低値を示し,Timed Up and Go test,体脂肪量が高値を示した.HRQOLおよびその他の項目では,都市部および農村部の2群間比較において有意差を認めなかった.一方で,HRQOLの影響要因には,都市部および農村部の高齢女性に共通して疼痛強度と中枢性感作関連症状(Central Sensitization-related Symptoms:以下CSSと略す)の重症度の指標であるCentral Sensitization Inventory-9(以下CSI-9と略す)が選択された.結論:都市部と比較して農村部の高齢女性では,全ての身体機能の測定値が有意に不良な値を示したが,HRQOLの影響要因には各居住地域に共通して疼痛強度とCSI-9が選択された.このことから,都市部および農村部において高齢女性のHRQOL維持・向上を図るためには,疼痛とCSSの軽減を目的とした介入が有用であり,農村部の高齢女性では身体機能の向上を目的とした取り組みの重要性が示された.

  • 金谷 和幸, 小田 伸午, 林 武文, 河端 隆志
    2025 年 62 巻 2 号 p. 206-211
    発行日: 2025/04/25
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル 認証あり

    目的:本研究では,高齢者を対象とした5カ月間のインターバル速歩トレーニング(IWT)を実施し,下肢の筋力および血圧の1カ月ごとの経時変化から高齢者におけるIWTの効果について検討をした.

    方法:被験者として48名の高齢者(男性14名,女性34名,平均年齢:70±5歳)が参加し,個別運動処方システムを用いた5カ月間のIWTを実施した.被験者は,介入前後に最高酸素摂取量(VO2peak)の測定を行い,さらにトレーニング開始から1カ月ごとに膝関節伸展・屈曲筋力および安静時の血圧を測定した.

    結果:5カ月間のIWT介入によりVO2peak(介入前:20.0±3.2 ml/min/kg,介入後:21.3±3.9 ml/min/kg)の有意な増加が認められた.膝関節の伸展・屈曲筋力においても,伸展筋力(介入前:20.6±6.4 kgf,介入後:27.2±9.3 kgf)および屈曲筋力(介入前:12.7±4.5 kg,介入後:14.7±5.2 kgf)で有意な増加を示した.膝伸展筋力については3カ月目まで月ごとに有意に増加し,その後プラトーとなった.膝屈曲筋力は,2カ月目まで有意に増加し,3カ月目以降プラトーとなった.安静時の血圧については,収縮期血圧で介入後2カ月目以降有意に減少がみられ,拡張期血圧では介入前と比較し5カ月目で有意に減少した.

    結論:5カ月間のIWTにより,VO2peakの増加による体力の向上,下肢筋力の増加,さらには安静時血圧の改善が認められた.しかし,伸展筋力および屈曲筋力に有意な増加が認められるも,4カ月後にはプラトーを示した.これらの結果から,より効果的に体力を維持・向上させるためには,VO2peakの測定を3カ月ごとに行い,適切な運動プログラムに調整する必要があることが示唆された.

  • 津江 尚幸, 堺 琴美, 浜田 将太, 佐方 信夫
    2025 年 62 巻 2 号 p. 212-219
    発行日: 2025/04/25
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル 認証あり

    目的:認知機能は日常生活動作に関連する重要な因子であるが,回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)入院患者の認知機能と排泄動作やオムツ使用との関連を調べた研究は少ない.本研究では,回復期リハ病棟入院患者における認知症疑いの有無とオムツの使用から離脱すること(以下,オムツ離脱)との関連を明らかにすることを目的とした.方法:2022年4月から6月に9病院の回復期リハ病棟に入院し,テープ式オムツを使用していた患者を対象とした後ろ向きコホート研究を実施した.認知症疑いは改訂長谷川式簡易知能スケール20点以下と定義し,オムツ離脱はリハビリテーションパンツまたは布パンツを使用している状態と定義した.認知症疑いとオムツ離脱との関連について,年齢,性別,入院時FIM運動スコア,運動麻痺(脳血管疾患のみ)で調整した二項ロジスティック回帰分析を実施した.結果:対象者は脳血管疾患100人(男性52.0%,年齢中央値81歳,認知症疑い65.0%),運動器疾患112人(男性22.3%,年齢中央値87歳,認知症疑い40.2%),廃用症候群52人(男性46.2%,年齢中央値85歳,認知症疑い75.0%)であった.認知症疑いのある患者は,認知症疑いのない患者と比較してオムツ離脱の割合が低く,認知症疑いの有無とオムツ離脱の関連については,脳血管疾患患者(調整オッズ比0.30,95%信頼区間0.11~0.86,p=0.024),運動器疾患患者(調整オッズ比0.15,95%信頼区間0.05~0.46,p<0.001),廃用症候群患者(調整オッズ比0.10,95%信頼区間0.01~0.79,p=0.029)と,全ての疾患群において負の関連が認められた.結論:回復期リハ病棟入院患者において,認知症疑いはオムツ離脱と負の関連があることが示された.オムツ使用からの離脱に向けた介入方針の決定には,入院時に認知症疑いの有無を評価することが有効である可能性が示唆された.

  • 田中 優成, 近藤 三聖, 岡谷 麻衣, 水上 勝義
    2025 年 62 巻 2 号 p. 220-232
    発行日: 2025/04/25
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル 認証あり

    目的:老人クラブ会員に対して口腔機能および栄養に関する情報を定期的に提供することで,自発的な健康行動を促し,口腔機能や食事摂取状況に与える影響を検証した.対象および方法:半年に1度,老人クラブ会員を対象に口腔機能や栄養に関する情報提供を行ってきた.本研究では,2022年3月と2024年2月の測定イベントに参加した60名を対象とした.オーラルフレイル(OF)の認知度,OFの危険性,口腔体操実施,舌圧,を前後比較した.また,口腔機能を維持または改善した群と危険性が高まった群に分類してOFの危険性に関連する因子を抽出した.食事摂取状況は食物摂取頻度調査により17食品群と23栄養素等摂取量を前後比較した.有意水準はいずれも5%未満(両側)とした.結果:対象者は男性36名,女性24名であり,年齢78.0±4.2歳,BMI 23.8±2.7 kg/m2で男女間に有意差は認められなかった.前後比較では,OFの危険性区分に有意差は認められなかったものの(p=0.359),OFの認知度が40%から98%(p<0.001),口腔体操の行動群の割合が13%から40%(p=0.002),舌圧が31.6±7.2 kPaから33.1±7.3 kPa(p=0.020)に有意な増加をした.また,OFの危険性に年齢区分および本イベントへの参加回数が関連していた.一方,16の食品群または栄養素で有意な増減が認められ,食事摂取状況の明らかな改善効果は認められなかった.結論:老人クラブ所属の比較的健康意識の高い集団に情報提供をすることで口腔機能は改善されたが,食事摂取状況の改善効果は確認できなかった.情報提供のみで自発的な健康行動を促す際,日常生活に口腔体操等を取り入れるよりも日常的な食習慣を変更することの難しさが示唆された.

  • 坂野 裕也, 村田 伸, 中野 英樹
    2025 年 62 巻 2 号 p. 233-240
    発行日: 2025/04/25
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル 認証あり

    目的:本研究の目的は,独歩で生活している要介護高齢者のうち,2年後に歩行補助具が必要となった対象者の特徴を明らかにし,歩行補助具使用の影響因子を検証することである.

    方法:対象は,歩行補助具は使用していない要介護高齢者179名であり,Functional Independence Measureの運動に関する13項目,10 m歩行時間,握力,片脚立位時間,膝伸展筋力,虚弱高齢者用10秒椅子立ち上がりテストを測定した.2年後に歩行補助具を使用していた要歩行補助具群と,使用していなかった独歩群の2群に分け,ベースライン時の身体機能を比較した.2群間に有意差を認めた項目を独立変数,歩行補助具使用の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った.さらに,歩行補助具が必要となるまでの期間を分析するため,ロジスティック回帰分析で有意であった項目は,Kaplan-Meier法を用いて,新規の歩行補助具使用者の発生率曲線を作成した.

    結果:要歩行補助具群では,10 m歩行時間,片脚立位時間,膝伸展筋力,虚弱高齢者用10秒椅子立ち上がりテストが,独歩群と比較して有意に低値を示した.ロジスティックス回帰分析の結果,歩行補助具使用の有無に影響を与える因子として膝伸展筋力のみが抽出された.さらに,膝伸展筋力維持群と膝伸展筋力低値群の2群に分けて分析した結果,下肢筋力低下群では下肢筋力維持群よりも有意に早期から歩行補助具を使用していた.

    結論:歩行補助具使用の影響因子は膝伸展筋力であり,膝伸展筋力低下の有無が将来の歩行補助具使用の必要性を予測する指標として有用であることが示唆された.

  • 永井 久美子, 玉田 真美, 輪千 安希子, 小林 義雄, 神﨑 恒一
    2025 年 62 巻 2 号 p. 241-249
    発行日: 2025/04/25
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル 認証あり

    目的:高齢運転者とその家族とで,自動車運転への考え方が異なることが多い.今回我々は,高齢運転者と家族との間でどのような点に相違がみられるのか,乖離がなにを意味するのかについて検討した.方法:高齢運転患者とその家族,計96組を対象にした.高齢運転者の自動車運転の様子を問う質問紙を作成し,本人および家族にそれぞれ回答してもらった.その後各質問に対する両者の回答状況の相違について検討した.結果:以下のような質問に対して本人と家族との間で回答率が有意に異なっていた:「車の操作が遅くなった」(高齢運転者21.5% vs 家族42.3%),「最近怒りっぽくなったように思う」(17.2% vs 33.3%),「車のキーや免許証を探しまわる」(15.1% vs 35.1%),「ウィンカーを出し忘れていたことがある」(4.4% vs 16.9%),「最近車体をこすることが増えた」(3.2% vs 20.3%),「運転は今のところ大丈夫だと思う」(95.7% vs 63.3%).また本人と家族との間で回答に相違がみられた項目数は一人あたり6.1±4.1個であり,7個以上相違がみられた群では6個以下の群より高率に過去3年以内に事故を起こしていた(25.8% vs 4.3%,p<0.01).結論:高齢運転者の現状について,本人と家族との間で認識が異なっていた.また両者の認識の乖離が大きい群では高率に3年以内の事故歴があった.運転免許返納に関する話し合いの場では,このような意識の乖離があることを理解して進めることが大切である.

症例報告
  • 松本 栄治, 濵 知明, 諫見 康弘, 坂井 賢哉
    2025 年 62 巻 2 号 p. 250-255
    発行日: 2025/04/25
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル 認証あり

    心筋炎は主に心筋を侵す一群の炎症性疾患であり,様々な病態を含む.主な原因物質であるウイルスのほか,細菌,有害物質,自己免疫,ワクチンなどの薬剤も本疾患を誘発する可能性がある.日本では,2020年1月から新型コロナウイルス感染症の流行が始まり,2021年2月からCOVID-19 mRNAワクチン接種が広く行われた.ワクチン接種後の心筋炎は,若年男性や2回目接種後に好発すると報告されている.心血管疾患の既往のない80歳の女性が,mRNAワクチンの3回目の接種を受け,1週間後に急性肺水腫で入院した.心筋マーカーの上昇,完全左脚ブロックの出現,発症前と比較した左室駆出率の低下を認めたが,原因となりうる冠動脈の狭窄や閉塞は認められなかった.心筋生検は施行できなかったが,詳細な臨床経過と検査所見からワクチン接種後の急性心筋炎と考えられた.ステロイドは用いずに非侵襲的陽圧換気と利尿剤の投与で改善し,入院11日目に退院した.しかし,1年半後に完全房室ブロックを発症し,永久ペースメーカーを留置された.本症は高齢女性においても3回目のmRNAワクチン接種後に急性心筋炎を発症する可能性があることを示唆しており,高齢者であってもワクチン接種の是非を慎重に検討すべきである.

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