日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
Print ISSN : 0915-924X
ISSN-L : 0915-924X
症例報告
脾臓低形成例に発症した肺炎球菌によるWaterhouse-Friderichsen症候群
赤坂 理金子 卓阿南 英明家本 陽一
著者情報
ジャーナル フリー

2007 年 18 巻 4 号 p. 143-148

詳細
抄録

症例は71歳の男性。生来健康であった。突然の38度の発熱, 水様性下痢, 嘔吐を認めた。次第に紅色皮疹が出現し, 呼吸困難感, 意識障害を伴ったため発症から約7時間後当院に搬送された。来院時ショック状態であり, 初期治療後, 集中治療室に入室した。頭部・胸部・腹部・骨盤CT検査では明らかな感染巣は認めなかった。集中治療室に入室後, 重症感染症による播種性血管内凝固症候群や急性腎不全などの合併症に対して集学的な加療を行ったが治療に反応せず発症後約33時間で死亡した。原因究明のため病理解剖を行った。両側副腎皮質の広範な出血性壊死, 及び全身の出血傾向を伴う多臓器障害, 脾臓低形成 (3.5cm×2.5cm×1.2cm ; 3.6g) を認めた。その後, 生前に採取した血液培養から肺炎球菌が検出された。脾臓に関しては瘢痕化なども認めないことから先天的な低形成であったことが示唆された。以上から脾臓低形成による劇症型肺炎球菌感染症を発症し, これがWaterhouse-Friderichsen症候群を惹起したものと考えられた。脾摘後敗血症はよく知られているが自験例も同様の病態と思われる。成人に初感染巣不明の重症敗血症が急速に発症した場合は脾臓低形成による免疫不全も考慮する必要があると考えられた。また, 尿中肺炎球菌莢膜抗原迅速キットが2005年1月に発売開始となっているが, 今後原因不明の重症感染症においては尿中抗原迅速キットの使用を検討し, データの集積を行う意義は大きいと考える。

著者関連情報
© 2007 日本救急医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top