症例は79歳の女性で,下血を主訴に当院を受診した.大動脈弁置換+冠動脈バイパス術の既往のため抗凝固維持療法中であり,PT-INRは3.03と延長していた.大腸内視鏡,注腸造影検査ではS状結腸に腫瘤性病変を認め,これが下血の責任病変と考えられた.入院後腸閉塞が進行し,また内視鏡的止血術が困難なため,S状結腸切除術を施行した.病理組織学的検査では粘膜下血腫と診断された.自験例の入院時PT-INR値は目標値上限を超えており,外傷などの他の血腫発生因子を有していなかったことから,抗凝固療法の出血性合併症として粘膜下血腫が生じたと推察した.抗凝固療法に関連した大腸粘膜下血腫の本邦報告例は自験例を含め2例のみでまれではあるが,抗凝固療法がさまざまな消化器疾患の成因の一つになりうることを認識する必要があると考えられた.