1997 年 30 巻 7 号 p. 1756-1760
症例は74歳の男性. 1986年に胸部食道癌にて食道亜全摘術, 胸骨後経路による胃管再建術を施行した. 1994年5月に挙上胃管に消化性潰瘍を認めたため抗潰瘍剤を経口投与していた. 同年8月13日, 突然, 前胸部痛が出現, 改善しないため, 8月14日当科を受診した. 胸部単純X線検査, 胸部CTにて心嚢内にgas像を認め, 上部消化管造影検査にて心嚢内への造影剤の流出を認めた. その後, 胸痛の増強, 血圧低下, 不整脈が出現したため, 心タンポナーデと診断し, 緊急手術を行った. 胸骨後経路による胃管再建であったため, 左開胸下に心嚢ドレナージ術を施行した. 術後, 血圧は安定, 不整脈も軽減した. 潰瘍に対しては経鼻胃管を留置し, ファモチジンを静脈投与した.
食道癌術後, 再建胃管潰瘍の心嚢内穿孔により心タンポナーデを来す症例はごくまれであり, 本邦では救命例の報告は無い (~1995年12月) ので, 若干の文献的考察を加えて報告する.