日本医真菌学会雑誌
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日和見感染症および夏型過敏性肺炎の原因菌種としてのTrichosporon asahiiの多様性解明
杉田 隆
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2003 年 44 巻 1 号 p. 7-12

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抄録

深在性トリコスポロン症は担子菌系不完全酵母Trichosporon asahiiを主要起因菌として発症する予後不良な日和見真菌感染症の一つである.また,T.asahiiは土壌等の環境中にも広く存在し,環境中から飛散した菌株が家屋で定着・増殖し,それを反復吸入することによって発症する夏型過敏性肺炎(SHP)の主要原因抗原でもある.本研究では,両疾患に関与するT.asahiiの微生物学的な多様性を検討した.様々な分離源由来のT.asahiiについてRAPD解析を行ないUPGMAフェノグラムを作成した.臨床分離株間の類似度(matching coefficient)は,90%以上を示し,互いにクラスターを形成したが,SHP株および環境分離株は単独のクラスターを形成せず両者が混在していた.生化学的性状からも同様にフェノグラムを作成したところ,環境分離株のみが単独のクラスターを形成した.さらにRAPDバンドのDNA塩基配列を詳細に解析したところ,臨床分離株およびSHP株には共通するが環境分離株には存在しないDNA断片を見い出した.以上のことから,T.asahiiを起因菌とする深在性トリコスポロン症および夏型過敏性肺炎の両疾患は,それぞれ異なる遺伝子型株に支配されていること,また,環境中に存在するすべての菌株が夏型過敏性肺炎に関与するのではなく,一定の選択を受けた菌株のみがその発症に関与している可能性が明らかにされた.また,分子疫学的な見地から深在性トリコスポスポロン症患者由来株のrRNA遺伝子中の26Sと5Sの間に位置するIGS(intergenic spacer)領域のDNA塩基配列を解析した.本領域は著しい種内変異を有し,地域特異性を示したことから新しい分子疫学ツールとして有用である.

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