育種学雑誌
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水稲品種コシヒカリの半矮性突然変異系統北陸100号および関東79号の半矮性に関する遺伝子分析 : 人為突然変異の利用に関する育種学的研究XVIII
谷坂 隆俊富田 因則山縣 弘忠
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1990 年 40 巻 1 号 p. 103-117

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抄録

水稲品種コシヒカリ種子のガンマ線照射で得られた,原品種より約30%短稈の半矮性突然変異系 統北陸100号および原品種より約40%短稈でかつ約10日早生の半矮性突然変異系統関東79号の半矮性に関する遺伝子分析を行った.分析にはコシヒカリ×北陸100号,コシヒカリ×関東79号および北陸100号×関東79号のF1,F2およびF3を用い,各組合せともF、では223~334個体,F3では無作為に選んだ100個体の個体刑次代100系統を供試した.北陸100号の半矮性は劣性突然変異で生じた1個の半矮性遺伝子sd(t)(仮称)に支配されていること,ただしこの半矮性は,コシヒカリが持つ配偶子致死遺伝子lt(仮称)が突然変異によって致死作用のない遺伝子ltm(仮称)に変異したために発現し得たものであることが判明した.関東79号の半矮性は劣性突然変異で生じた1個の早生遺伝子ehe(仮称)の多面作用によるものであり,この遺伝子eheと上記配偶子致死遺伝子lt間に相互作用は存在しないことが判明した.またeheは上記sd(t)およびltとは互いに非対立でかつ独立遺伝することが明らかになった.これらの結果は,北陸100号の半矮性遺伝子を配偶子致死遺伝子ltを持つ品種・系統に導入しようとする場合には,交雑後代の個体数を多くする必要があること,また半矮性化と同時に早生化を図りたい場合には,関東79号を交配母本として用いるのが適当であることを示している.北陸100号で検出した半矮性遺伝子sd(t)は、稈形質以外の農業形質に影響を及ぼさないこ と,配偶子致死遺伝子ltと相互に作用し合うこと,並びに同一座の3遺伝子d-47,sd-1およびd-49(t)と座を異にすることから,既知の半矮性ないし矮性遺伝子とは異なる遺伝子と考えられる.そこでこの遺伝子にd-60の記号を与えた.

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