主に重粒子線治療と呼ばれる炭素イオン線治療は,従来の放射線治療に対して,優れた線量集中性と強い生物効果を持っており,その特性を生かすことによって,従来の放射線治療と比べ,より低侵襲で,より局所効果の強い治療を行うことができる。臨床応用の試みが始められたのは米国であったが,1994年から日本で多くの臨床実績が重ねられている。臨床研究としての治療から始まり,安全性と効果が評価され,先進医療の承認を経て,一部の疾患に対しては保険診療の適応にもなっている。多くの疾患でその有用性が示されており,今後の適応疾患の拡大も期待されている。現在も世界の重粒子線治療施設の半数以上が日本にあり,日本が世界を牽引している医療技術である。施設の建設・運用コストや,医療制度の複雑化など解決すべき課題も多いが,治療技術の開発研究も多く行われており,今後の変革や発展も見込まれている。本稿では,重粒子線治療について,その特徴と臨床応用について概説する。