抄録
本研究では,身体重心の軌跡の変動に基づき,歩行時の動的安定性を直接数値化し,それが安定した歩行と不安定な歩行を明確に区別できるかを検討した。対象は健常成人男性11名とした。歩行条件としては,トレッドミルを利用した低速度(1.0 km/h),中速度(2.5 km/h),高速度(5.0 km/h)での定常歩行3条件(安定歩行条件)と,トレッドミルのベルト速度を加減速(0.1 - 5.0 km/h)させ,身体のふらつきを誘導した不安定歩行条件の計4条件とした。歩行安定性の評価として,前額面上における身体重心の軌跡から,1歩行周期毎の身体重心左右動揺幅と1歩行周期時間それぞれの平均値,標準偏差,変動係数を求めた。その結果,身体重心左右動揺幅と1歩行周期時間の標準偏差および変動係数は,安定歩行条件下では歩行速度間で有意な差を認めなかったのに対し,安定歩行条件と不安定歩行条件の間には有意な差を認めた。以上より,身体重心軌跡の左右変動は,歩行の不安定さを直接的に表す指標となる可能性が示唆された。