陸水学雑誌
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総説
森林生態系の撹乱影響とその長期影響評価に向けたPnET-CNモデルの適用の検討
徳地 直子舘野 隆之輔福島 慶太郎
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2006 年 67 巻 3 号 p. 245-257

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抄録
 森林生態系の撹乱に伴う影響について既往の研究をまとめ, その長期影響評価を北米で開発されたPnETモデルをわが国にも適用するための検討を行った。
森林生態系の撹乱は, 生態系内での主要な物質循環経路である植物による吸収を断つため, 物質循環に大きな影響を及ぼす。特に, 窒素は植物-土壌系において吸収・分解の再循環を最大の経路とするため, 撹乱の影響が顕著に現れる。撹乱により吸収されなくなった余剰の窒素は, 硝化過程を経て硝酸に変換され, 渓流中へ流亡し下流へも影響を及ぼす。PnET-CNで森林撹乱の長期影響予測をしたところ, 林齢に伴う現存量の頭打ちや加齢に伴う葉の窒素濃度の低下といったパターンはほぼ再現された。しかし, 個々の数値には既存の研究にみられる実測値と大きな隔たりがあった。これらのことから, 諸現象の再現は擬似的なものに過ぎず, 今後は水分条件や養分条件, 根系の発達過程などに基づいたパラメーターの設定を行うことが必要であることを示した。さらに, 精度の向上のために必要な新しいプロセスとして更新プロセスが, わが国への適用のためには地形的異質性を加味した新しい水文プロセスの改良が重要であると考えられた。加えて, わが国で精度の高い長期的な森林撹乱の影響予測を行うためには, 長期のモニタリングデータベースの整備を進める必要がある。
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© 2006 日本陸水学会
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