河川の水質形成を考える上では,その集水域の情報が重要となる。多様な流域環境を持つ多摩川水系の浅川を対象として,流域内に設けた34の観測点の水質指標と,各観測点の集水域指標を用いて相関係数の算出と,多変量解析(クラスター分析,主成分分析)を実施し,水質と集水域の因子の関連性を考察して,水質の情報と集水域の情報の両者を用いた総合的な河川水質と流域特性の把握の手法を開発することを試みた。クラスター分析の結果は,水質指標と集水域指標とでは似た結果を示したが,一部分類の傾向に違いがあり,その違いを用いて対象流域内の特殊な支流や点源汚染の抽出や,その要因について考察することができる。また,主成分分析の結果はクラスター分析の結果と比較して自然及び人為のどちらが大きな影響を与えているかを考察することや,特異な集水域指標を持つ支流がどの程度水質形成に影響を与えているか等を明らかにするのに用いることができる。本研究による河川の水質指標と集水域指標の両者に多変量解析手法を適用させる方法は,流域内の因子が水質に与える影響を理解することに役立ち,河川流域の管理や保全に活用されることが期待される。
本研究では,滋賀県の統計資料や関係公文書等に関する文献調査と聞き取り調査によって1930年代の琵琶湖南湖における肥料目的の沈水植物の採取量の推定を試みた。調査の結果,推定に使用できるデータとしては『滋賀縣統計書』に記載された1930-38年度の南湖周辺市町村における漁獲量「藻類」(16407 ± 673 t)と滋賀県の公文書『琵琶湖利用調査』における1933-39年度の外湖(≒南湖)における肥料目的の「採泥採藻量」(14520 ± 1702 t)があることを見出した。しかし「藻類」は,漁業者としての販売目的の採取活動がほぼ存在しなかったことから何を指している値かが不明であった。それに対して後者の「採泥採藻量」は,その意味が明白な上に,滋賀県が国の水位低下計画による採取量の減少被害の算定に用いていたことから信頼できる値と考えられた。ただし「採泥採藻量」には北湖の一部での採取量と底質の重量が含まれているため14520 ± 1702 t は1930年代の南湖における沈水植物の採取量の上限値と見なすことが適当であろうと結論付けた。