広域を同時かつ高解像度で観測できる地球観測衛星GCOM-C/SGLIのデータを用いて,近年の琵琶湖における植物プランクトンの時空間的分布動態に対する温暖化の影響を評価した。本研究では,2018年から2022年における琵琶湖北湖のクロロフィルa濃度の経時変動を解析した。その結果,そのクロロフィルa濃度は5年間で有意な減少傾向(p < 0.001,-0.03 mg m-3 month-1)を示した。また,季節別のクロロフィルa濃度の経年変動を解析した結果,春・夏・冬期では明瞭な増減傾向が見られなかったが,秋期において減少傾向が明らかとなった。さらに,秋期における混合層発達速度および琵琶湖集水域における降水量は,この5年間で大きく低下していた。つまり,温暖化に伴う水循環の変化が,秋期における湖内外からの栄養塩供給の減少を引き起こし,その結果として,琵琶湖における植物プランクトン現存量が低下したと考えられる。
アルカリホスファターゼ(AP)は溶存態の有機リンを無機化する主要な酵素である。長野県の諏訪湖ではここ40年で生物が直接利用できる水中の無機リン濃度が85%減少し,生物にとってAPを介した有機リンの利用が重要になっている可能性が高い。しかし,諏訪湖におけるAPの研究事例は乏しい。そこで,本研究では諏訪湖におけるAPを介した有機リンの動態を解明するために,諏訪湖をはじめとする4水域でAPの活性値(APA)をAPの生産者別に分け測定と解析を行った。
諏訪湖では有光層・無光層に共通してAPの大部分は植物プランクトン由来で,有機リンの無機化には植物プランクトン由来のAPが大きく関与していた。APA/Chl-aの比を用いた解析から,有光層の植物プランクトンのAPの生産は水中の懸濁態リン濃度によって制御されていることが示唆された。無光層には有光層から植物プランクトンと共にAPが沈降しており,無光層における有機リンの無機化には有光層から供給されたAPも関与している可能性が示された。また,バクテリアは炭素獲得のためにAPを生産した結果,無機リンを植物プランクトンへ供給している可能性も示された。
本研究では,琵琶湖の深湖底に生息するビワオオウズムシBdellocephala annandaleiの摂食速度と排泄等による溶存態窒素の放出速度を室内実験で調べた。実験では,餌として琵琶湖に生息しているDaphnia pulicariaの死骸を用い,水温は生息環境に近い7.5 ± 0.3 ℃にした。ビワオオウズムシの摂食速度は,炭素では128.89±28.21 μg mgDW-1 d-1,窒素では27.27±5.53 μg mgDW-1 d-1であった。一方,溶存態窒素の放出速度を溶存態全窒素(DTN)とNH4-Nで求めたところ,DTNでは9.23±1.14 μg mgDW-1 d-1であり,NH4-Nでは1.95±0.49 μg mgDW-1 d-1であった。これらは,これまでなかった本種の生態学的な基礎知見であり,琵琶湖深湖底での栄養塩循環において本種が果たす機能の理解を進めるものである。また,ビワオオウズムシは,温暖化による貧酸素化の影響で減少傾向にあることから,本種の保全や,個体群衰退後の湖底生態系に生じるリスク評価に,本研究の知見は役立つと考える。