日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
心不全との関連から
矢尾板 裕幸丸山 幸夫
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キーワード: 高齢者, 心不全, 腎不全, 貧血,
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2006 年 43 巻 6 号 p. 718-721

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抄録

心不全患者数は増加しており, その中でも特に高齢者の占める割合は高い. 高齢者では, 心不全症状が不顕性であることもあり, 高血圧症, 糖尿病, 高脂血症などの心不全の危険因子ありの状態 (ACC/AHAの心不全 stage A) ではなくて, 心肥大, 心筋梗塞などの心臓の構造変化を有している時期 (stage B) や, 心不全症状発症後 (stage C-D) になって医療機関を受診することも多い. このことは, 高齢者の心不全の予防医学を推進する上での課題である. また, 高齢者では腎障害, 肝障害, 貧血, 運動機能低下など, 異なる病態が並存する場合が多く, それらが心不全の病態を修飾して, 悪化, 複雑化させていく. また, このような状態では心不全の薬剤治療の使用に制限や薬理効果の減弱といった問題も生じる. その中で, 心不全と腎障害・腎不全 (さらには貧血) と連関した病態である cardiorenal (anemia) syndrome の概念が提唱されている. この症候群は特に高齢者に多く, 再入院率が高い, 入院日数が延長するなどの生活の質及び医療経済上の問題を抱えている. このような高齢者によくみられる心不全の診断と病状の把握には, まず注意深い観察が必要であるが, 具体的には Nohria のプロフィールなどを活用し, 可能な限り非侵襲的なアプローチが望まれる. この病態の治療は, 従来からの心不全治療に加えて, カルペリチドの少量からの点滴静注もしばしば有効である. 貧血の合併に対しては, 貧血の程度と治療適応により, 容量負荷に注意しながらの輸血, 鉄剤の投与, 副作用に注意しながらのエリスロポエチンの使用もあり得る. ただし, 高齢者では心不全との関連に加え, それ以外による貧血も存在し得る. 特に悪性腫瘍の合併による貧血は重要であるが, 血清フェリチン値のモニターによる鉄欠乏の評価が鑑別に有用である場合がある. このような高齢者特有の事情を十分考慮した心不全治療は, 生活の質と予後の改善に繋がるであろう.

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