1998 年 71 巻 4 号 p. 272-293
本研究は,ネパールの地方都市ポカラのダムサイド地区におけるツーリストエリアの形成・展開の経緯を実態に即して明らかにし,そこに内在するダイナミズムを分析したものである.主にホテル業に参入した民族「企業家」を対象に調査を行った結果,山地民族のタカリーやグルンが故地から南部低地や都市に移住する過程において,ポカラのダムサイドでホテル業を始め,ツーリストエリア形成の主体となっていたことが明らかになった.1970年代に始まった彼らのホテル業への参入は,各民族集団内における金融講や相互扶助機能などによって促進されてきた.1980年代後半以降,ダムサイドには,従来のロッジタイプのものに加え,.「高級」指向のツーリストに対応し得るホテルも出現し,ホテルの質の二重構造化が顕著となった.それに伴い,従来の非熟練低賃金労働に加え,ある程度の学歴や知識を持った人材が求められるようになり,労働力市場においても質の二極分解が進んでいる.