医学分野では,個体に対して刺激や用量といった処理を与え,特性値の処理前後の二つの値がそれぞれ正規分布に従うとして,それらの変数から導出される「比」(あるいは「変化率」)をもって処理による影響の程度(処理効果)を評価することがある.このとき,解析において,比を選択することは,処理効果が処理前値に比例することが前提とされる.しかし,実際には,比の分布上の性質を十分に考慮せずに,比を用いている場合が多いようである.本稿では,正値をとる二つの変数が2変量正規分布に従うとの仮定のもとで,比の近似分布の特性を吟味し,どのような場合に比の近似分布が正規分布で近似できるかを検討した.そのうえで,比をどのような場面で用いることが適切か,あるいは不適切かを議論した.とくに,1標本における処理前後の値の比較,2標本における処理前後の変化の比較における,比の解析の問題点を明らかにした.