2007 年 60 巻 10 号 p. 895-900
便失禁は深刻な身体障害の一つであり, QOLに及ぼす影響は大きい. 肛門のコンチネンスには内肛門括約筋 (安静時のトーヌス), 外肛門括約筋 (随意収縮), 直腸肛門角, 直腸のリザーバー機能, 肛門の感覚, 便性状などがかかわっている. 便失禁の病因は外傷性 (分娩, 肛門手術), 神経原性, 特発性, その他に分類される. 便失禁に対する生理学的評価としての直腸肛門検査, 肛門管超音波検査, 陰部神経終末運動潜時測定を行う. 便失禁の保存的な対症療法として軟便の漏出性便失禁の患者には薬剤 (ポリカルボフィルカルシウム, ロペラマイド) による便性コントロールが有効である. 骨盤底筋体操とバイオフィードバック療法は切迫性の便失禁の患者を適応とする. 便失禁の外科的治療は外傷性の外肛門括約筋損傷 (分娩外傷など) が良い適応であり, 瘢痕組織のみを剥離・離断してオーバーラップ縫合を行う. 括約筋損傷のないいわゆる特発性便失禁に対しては恥骨直腸スリング手術を試みている.