当院にて2019年度で治療した肛囲膿瘍の①臨床的背景②経肛門的超音波検査の有用性について検討を行った.
結果:①肛囲膿瘍の約80%が肛門腺由来の膿瘍であった.②肛囲膿瘍の切開排膿前の正診率(切開排膿後の根治手術所見を最終診断とした診断的中率)は,指診(74%)と比較し,経肛門的超音波検査(99%)が有意に高く有用であった.
症例は77歳の女性で,2023年5月に高血圧に対する治療を開始するために近医クリニックを受診した.胸部レントゲンにて右肺結節陰影を指摘され,6月に当院に紹介となった.精査の結果,転移性肺癌を伴う上行結腸癌,UICC(#8)Stage IVAに加え,右腎癌,UICC(#8)StageIの重複癌の診断であった.8月,腹腔鏡下右半結腸切除術+右腎摘出術を施行した.腎癌は最大径31mmの淡明細胞型腎細胞癌の組織型であったが,興味深いことにその腫瘍内に上行結腸癌の転移病変を認めた.転移性肺癌に対して全身化学療法を施行後,12月に胸腔鏡下右肺下葉切除術を施行した.現時点で再発の所見なく,順調に経過している.腫瘍内転移は転移先の腫瘍内部に転移元の腫瘍が存在する稀な現象である.今回われわれは,腎癌に腫瘍内転移をきたした上行結腸癌の1例を経験し,文献的考察を含め報告する.
直腸・肛門重複症は先天性奇形である消化管の重複症の中でも頻度が少ないとされている.更に肛門部に瘻孔を形成するなどの症状を有する症例は,多くの場合小児期に治療されるため成人ではきわめてまれである.今回われわれは成人期に発見された直腸・肛門重複症の症例を経験したので報告する.症例は34歳,女性.他院で痔核の手術を施行された際に肛門後方に瘻孔を指摘され,直腸・肛門重複症の疑いで当院を紹介された.初診時の診察所見では肛門の背側に約1cm程度の肉眼的に盲端になっている瘻孔を認め,画像検査では明らかな直腸との交通は認めなかった.瘻管の長さも短いことから経肛門的に切除を行い,手術所見と病理検査の結果から直腸・肛門重複症と診断された.
骨盤臓器脱Pelvic organ prolapse(POP)の術式の1つとしてTension free vaginal mesh(TVM)手術がある.われわれは他施設で施行されたTVM術後の重篤な排便障害,排尿障害,慢性的な会陰肛門部痛を合併した患者に対して直腸膣間のP-TVMメッシュ離断を行い,排便障害および会陰肛門部痛の改善がみられた症例を経験した.骨盤臓器脱の手術は様々な術式が考案され行われているが,それによる骨盤臓器の過度な牽引や人工物を挿入留置する手術は十分な注意が必要と考えられる.
症例は64歳女性で,2017年12月に切除不能進行S状結腸癌に対し横行結腸で双孔式人工肛門を造設した.治療希望がなかったため経過観察となっていたが,2018年3月人工肛門脱出を主訴に当科受診した.診察所見では肛門側腸管が約10cm脱出し,粘膜の著明な浮腫や断裂を認め,一部は黒色に変色していた.入院時検査所見ではWBC 10,900/μl,CRP 2.95mg/dlと炎症反応上昇を認めた.腹部造影CTでは双孔式人工肛門の肛門側腸管が反転脱出する像を認めた.人工肛門脱出嵌頓の診断となり,直腸脱に対するAltermer法を応用して,開腹することなく腸管切除・吻合を行った.手術時間は40分で,出血量は少量であった.術後経過は良好で第8病日に退院となった.開腹することなく脱出腸管の切除・吻合を行った人工肛門脱出嵌頓の1例を経験したので報告する.