九州歯科学会雑誌
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原著
滑膜細胞に対するIL-1ra超音波遺伝子導入の抗炎症作用
永尾 史徳
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2009 年 63 巻 2 号 p. 67-77

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抄録

顎関節症患者の関節滑液中ではInterleukin-1β(IL-1β)発現が増強し,対称的にその抑制系であるIL-1 receptor antagonist(IL-1ra)が減少していることが報告されているが,組織内にIL-1raを増加させることができれば,この炎症性変化の制御に有効だと考えられる.そこで今回,この関節炎を制御する安全で非浸襲的な方法を確立するために,IL-ra遺伝子を滑膜細胞に超音波遺伝子導入し,抗炎症効果が発現するかを検討した.
ウサギ膝関節由来滑膜細胞株HIG-82を5%CO2,37℃にて培養し,実験に供した.超音波振装置(Sonitron 2000TM)を用いて,IL-1ra cDNAをHIG-82に導入した.遺伝子導入の際,導入効率増強を目的にマイクロバブル(SonoVueTM)を併用した.遺伝子導入細胞中のIL-1ra mRNAの発現をRT-PCRで,またIL-1raタンパクの発現を免疫染色にて確認した.また,HIG-82にIL-1ra遺伝子を導入後,細胞をLPSで刺激し,IL-1β,IL-1raとPGE2の産生をELISAにて検討した.
予備実験としてHIG-82に対してIL-1ra遺伝子を超音波遺伝子導入する際の超音波ならびにSonoVueTMの濃度の至適条件の検索を行ったが,IL-1ra遺伝子の導入効率が最も優れていたのは超音波強度;2.0W/cm2,周波数;1 MHz,Duty比;10%,照射時間30秒の条件であった.また,SonoVueTMは細胞懸濁液中で5%の濃度で最も遺伝子の導入効率が優れていた.HIG-82にIL-1raを超音波遺伝子導入することにより,RT-PCRにてIL-1ra mRNAの発現が確認され,免疫染色においてはIL-1ra陽性細胞が確認された.また,遺伝子導入細胞にLPS刺激を行うと,炎症反応が惹起され,コントロール群,IL-1ra導入群ともにIL-1βの発現が誘導された.両群間に有意な差は認められなかった.しかし,コントロール群ではIL-1β発現に続いて継時的にPGE2の産生が亢進したのに対して,IL-1ra遺伝子導入群ではPGE2発現は有意に抑制されていた.
この研究で,in vitroにおける滑膜細胞へのIL-1raの遺伝子導入による抗炎症効果が確認され,顎関節の炎症性変化に対する遺伝子治療の可能性が示唆された.

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