2000 年 15 巻 2 号 p. 299-312
権力を主題とする社会理論を権力理論と呼ぼう。権力理論は、理論であるからには現象を説明する能力をもとめられ、与件から被説明項である社会状態を一義的に演繹するものでなければならない。この性能は理論が備える法則的言明あるいはそれらの組から導出される命題が担っている。権力理論は、理論に備わる法則あるいはそこから導出される命題のいくつかが非対称的な決定(ディタミネーション)の形式となる社会理論のことである。この非対称な命題を権力命題と呼ぼう。このことはすべての変数が一般には相互に連関するという社会理論に持ちこまれた特殊な仮説であり、つねに無条件に成立することではない。非対称的な決定形式を持つ法則的言明が理論に含まれるとはどのような場合であるのかまたどのような条件のもとでそれは可能となるのか検討すると、権力は一つの理論体系の中でも多様なものでありうることが明らかになる。またそれらの可能性に応じて権力理論がどのようにして可能になるのかについて、いくつかの権力理論の一般性と特殊性とについて検討する。