抄録
イノシシの学習能力を測定するために、迷路学習実験を行なった。実験装置としてT字迷路を2つ組み合わせた複合迷路を作製した。実験には飼育イノシシ5頭を供試した。迷路内の一部を利用した馴致および訓練の後、本試験を行なった。本試験は6試行/セッション、1セッション/日とし、連続4日間行なった。迷路のゴール地点には報酬を設置し、供試個体がそこに到達するまでの時間(到達時間)、袋小路になっているエラーエリアへの侵入回数(エラー回数)およびスタート方向へ逆走した回数(逆走回数)を記録した。到達時間は、セッションを重ねるごとに短縮した。エラー回数は、セッションを重ねるごとに減少し、セッション4ではエラーが無くなった。これらの結果を家畜における迷路実験と比較すると、イノシシが家畜と同等もしくはそれ以上の学習能力を持つことが示された。そして、イノシシにおいても到達時間とエラー回数が、齧歯類の迷路実験と同様に学習能力を測定する指標として有用であることも示唆された。逆走回数はセッションを重ねるごとに減少した。スタート地点は、供試個体にとって安全で非常に慣れた場所であったため、逆走回数の減少がイノシシの新奇環境に対する慣れと関連していることが考えられた。